腸内細菌の力で肥満を防ぐ リノール酸から作られたHYAの働き 農工大らの研究

2019年9月10日 12:18

 東京農工大学の研究グループは5日、多価不飽和脂肪酸が腸内細菌により新たな脂肪酸に変えられ、それが人の代謝に影響を与えて肥満しにくくすることを発見し、その仕組みを解明したと発表した。

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 今回の研究は、東京農工大学大学院の宮本潤基特任教授、木村郁夫教授らと慶應義塾大学、京都大学、千葉大学、熊本大学、静岡県立大学、カナダトロント大学との共同研究により行われた。

 脂肪はタンパク質、炭水化物とともに人が生きる上で重要な栄養素の一つである。脂肪を摂りすぎると肥満のもとになるが、重要なのは単にその量ではなくその種類であるといわれている。脂肪のうち多価不飽和脂肪酸は脂肪過多による色々な病気を防ぐこと知られており、例えば魚の脂であるDHAやEPAは、コレステロールや中性脂肪をさげる医薬品にもなっている。

 脂肪にはたくさんの種類や分類の方法があるが、その一つとして飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸がある。飽和脂肪酸は例えば肉、バター、卵黄などに含まれており、摂りすぎは心血管疾患のリスクをあげる。

 また不飽和脂肪酸のうち、人間が体内で合成できない必須脂肪酸としてω3系統とω6系統がある。ω6系統は紅花油、ひまわり油、大豆油に含まれるリノール酸などがある。ω3系統はシソ油、亜麻仁油、魚油に含まれるDHA、EPA、α-リノレン酸などがある。ω3系統の脂肪酸には心血管疾患のリスクをさげる作用があり、健康のためにはこのω6とω3脂肪酸のバランスが大切だといわれている。

 研究グループは、腸内細菌がω6系統の脂肪酸であるリノール酸を分解してできた、HYAという脂肪酸と肥満の関係を明らかにした。まずマウスに高脂肪食を与えると、普通食を与えたときよりも腸内細菌の量が大幅に減っていた。同時に、腸内細菌がリノール酸を分解してできる脂肪酸であるHYAも顕著に減少していた。

 高脂肪食と一緒にリノール酸を与えると、腸内細菌量は減らなくなったが体重は増加していた。一方高脂肪食と一緒にHYAを与えると、体重増加も抑えられた。

 そしてHYAは、腸で分泌されるGLP-1の量を増やすことも明らかになった。GLP-1は血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌量を増やすとともに、食欲をコントロールして体重を減らす効果があり、既に糖尿病治療薬として医薬品になっているホルモンである。

 さらに、どの種の乳酸菌がリノール酸を分解してHYAにしているのかも明らかになった。

 日本では食生活の西洋化が進むとともに高脂肪食を摂ることが増え、その結果肥満や心血管疾患が増加している。今回の研究により明らかになった食事と腸内細菌のかかわりやHYAの働きを、今後医薬品や治療として生かしていくことが期待できる。

 研究の成果は5日、「Nature Communications」誌に掲載された。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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