楽天が急停止、携帯事業への本格参入を一時延期 (2-1) 何がネックだ?
2019年9月7日 17:52
菅義偉官房長官が18年8月に口火を切り、「携帯料金には4割程度の値下げ余地がある」と講演会で発言して始まった携帯電話料金値下げへの動きは、その後も日本の携帯電話料金が割高であることを指摘する発言が繰り返されて方向性が決まった。
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携帯電話料金の値下げが実現しないネックとして捉えられていた「4年縛り」や「2年縛り」は、総務省が主催する有識者会議で問題点が焙り出され、端末の料金と通信料金の分離や、「2年縛り」の違約金を従来の9500円から1000円以下にするという明確な縛りがかけられた。
仕上げと言えるのが、楽天の携帯電話参入だった。競争原理が働かない元凶として捉えられたNTTドコモ、KDDIとソフトバンクが構成する3社寡占体制に、風穴を開ける存在として、かねて携帯電話事業に積極的な姿勢を見せていた楽天に期待が集まったのも無理はない。
楽天の三木谷会長兼社長は携帯電話の料金プランに対して「格安スマホと同水準にしたい」と述べてきたこともあって、国内携帯電話市場に旋風を巻き起こす役割が楽天には期待されていた。
楽天のシステムが斬新なことは既に周知されている。今まで割高なオーダーメードの通信機器に莫大な投資を続けてきた世界の通信事業者にとって、基幹通信網から末端基地局網までを全て「完全に仮想化されたクラウドネットワーク」で結ぶという夢のシステムに大きな関心が集まっていた。
設備工程と投資金額を圧倒的に縮小する「仮想化」の実態に、我々はまだ接することが出来ない。楽天の社内において「実証実験」が行われ、何ら問題はないとのアナウンスを「そんなもんか」と受け止める他ない。
総務省が既に3度に渡って基地局設置のスピードアップを求めていることから、楽天が基地局の設置に苦労していることは認識されていた。楽天は20年3月末までに東京・大阪・名古屋圏に3432カ所の自前の基地局を設置する計画を立てている。
その他の地域については「ローミング」という手法で、KDDIの設備を借用する。ローミングの期限は26年3月末だから、20年3月末までに東京・大阪・名古屋圏に自前で3432局の基地局網を完成させてから、6年かけて地方の基地局網を整備するという計画だった。
東京・大阪・名古屋圏に自前で設置した基地局が、5日時点で532局だという。開業予定日の10月1日までに設置しなければならない基地局数の縛りはないと言いながら、総務省から3度の督促を受けても、未だに20%に満たない532局ではどう考えてスピード感がなさすぎる。このまま事業がスタートしてしまえば、回線の途絶やつながりにくさが社会問題を引き起こし、責任追及の矢面に立たされそうな総務省が座視する筈がなかった(2-2に続く)。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)