三菱航空機、スペースジェット「M100」100機の受注協議開始
2019年9月7日 16:55
三菱航空機は6日、米航空会社メサ航空とジェット旅客機スペースジェット(旧MRJ)の70席級「M100」を、100機受注する協議を開始したことを発表した。総額は約4千億円規模で、納入開始は24年の予定だという。
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08年から鳴り物入りで開発を始め、5度に渡る納期の繰り延べを行い正念場を迎えていた三菱リージョナルジェット(MRJ)は、主力機種と位置付けられた70座席級の「スペースジェットM100 」と、90座席級の「スペースジェットM90」の2機体で構成される三菱スペースジェットへと変身することが、6月に発表されていた。
当初から開発が続けられていた90座席の機体は、米国の大手航空会社とパイロット組合が締結している、「スコープ・クローズ」(上限値:最大離陸重量39トン、76座席)と呼ばれる労使協定をクリア出来ない機体だった。幸か不幸か、5度に渡る納期の繰り延べが行われていたため目立たない事項だが、仮に無事完成していたとしても、「スコープ・クローズ」に抵触している機体を米国で飛ばすには制約があった。
6月25日に、三菱重工業は、カナダ・ボンバルディアとリージョナルジェット機「CRJ」事業の譲渡契約を締結したことを発表した。事業取得費用に5億5千万ドル(約590億円)と債務継承に2億ドル(約210億円)、合計約800億円という高額な投資となるが、カナダに2カ所のサービス・サポートネットワーク拠点と米国に2カ所のサービスセンターを手に入れて、CRJシリーズの保守やカスタマーサポート、販売網なども継承している。
ボンバルディアは小型のターボプロップ機事業をカナダのバイキング・エアへ、Qシリーズ事業をカナダのロングビュー・アビエーションへ、CRJ部門は三菱重工業へ売却して、ビジネスジェット機部門と鉄道部門に特化するようだ。
現在CRJの運行機数は約1200機だから、メサ航空同様に買い替え需要を取り込んでいけば、計算上は「スペースジェットM100 」に1000機を超える市場が見込めることになる。
16年7月に、米誌アビエーション・ウィークが伝えた「米スカイウエスト航空がカナダのボンバルディアとの間で機体整備契約を10年間延長したのは、MRJがスコープ・クローズに抵触しているため、ボンバルディアに変更する含みがあるのではないか?」という懸念も、三菱重工業がボンバルディアのCRJ部門を引き継ぎ、70座席級の「スペースジェットM100 」を開発することで解消した。
旧MRJ事業は開発費用を1800億円程度に抑えた上で、1000機規模の受注があって初めて採算が立つと言われていた。既に6000億円を超える投資をしているため、採算が厳しい状況にあることは間違いないが、自前で約400機の受注を抱え、CRJの運行機数が1200機であることを勘案すると、最悪期はやり過ごしたとも考えられる。昨年の最悪の時期には”納入ゼロのままで撤退か”と取り沙汰す向きがあったことを思えば、天と地ほどの違いを感じている関係者は多いだろう。
但し、20年半ばの納入が期待されていた「M90」(旧MRJ)が、未だに型式証明取得に至っていないことが気掛かりだ。吉報のみで終わらないところに、三菱スーパージェットの憂いがある。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)