「利益」を発想のスタート地点にする【財務はおもしろい~老舗企業の思考から学ぶ、 " 百年続く中小企業経営 " の教科書~】
2019年9月3日 22:04
【第4回】多くの企業・経営者の経営コンサルティングから生み出された「数字を使わず経営を理解するカベヤ式財務のノウハウ」。数字が苦手な人にこそ知ってもらいたい、決算書の数字が読めなくても企業の置かれた状態が簡単に理解できる考え方と老舗企業が100年続く経営の仕組み、財務の考え方から中小企業が永続的に続くための秘訣をお伝えします。
本連載は、書籍『財務はおもしろい 老舗企業の思考から学ぶ、"百年続く中小企業経営"の教科書 (数字を使わずカンタンに理解するカベヤ式)』(2019年7月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。
財務はおもしろい~数字を使わず理解する財務の教科書~
財務の基礎となる「財務諸表」「 貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」について、こちらの連載でお伝えしています。 多くの企業・経営者の経営コンサルティングから生み出された「数字を使わず経営を理解するカベヤ式財務のノウハウ」。数字を極力使わずに、さっと短時間で財務の全体像と重要ポイントを紹介します。
老舗企業の「利益」の考え方
潰れる会社の利益の考え方
今回は、「利益」についてです。
前回の連載では、事業を永続し、雇用し続けることが、中小企業の最大の役割だと言いました。
では、永続できる会社とはどんな会社なのか?
永続している会社は利益というものをどのように考えているのか?
その答えを、永きにわたって続く老舗企業の考え方から紐解いていきたいと思います。
ここで皆さんに問題です。皆さんは「利益」というものをどう考えますか?
「利益とは〇〇である」の「〇〇」に入る言葉を書きなさい、と言われたら何と書きますか?
おそらく多くの方が、「利益は収益と費用の差額である」と答えるのではないでしょうか。収益から費用を引いて、その結果、手許に残ったお金が利益である。普通に考えたらそうですね。
しかし、違います。これが潰れる会社の考え方なのです。収益と費用の差額で結果的に手許に残ったものが利益なんだ、と考えてしまうと、残念ながらその会社は遅かれ早かれ潰れていきます。
実際に世の中では毎日のように新しい会社が生まれていますが、10年経つとそのうちの1割も残っていないと言われています。要は9割の会社が永続せずに潰れてしまうわけです。それは当然です。ほとんどの会社が、潰れていく会社の利益の考え方をしているからです。
一方、永続している老舗企業は、実は皆さんが考える利益とは全く違う考え方で利益を定義しています。それはどのような考え方でしょうか?
利益はコストである?
結論から書きましょう。
老舗企業は「利益はコストである」と考えています。一体どういうことでしょうか?
皆さん、算式を思い浮かべてください。「収益ー費用=利益」というのが皆さんの考え方です。老舗の考え方は算式が違います。老舗企業は、
利益=収益ー費用
という算式で考えるのです。
何だ、書く順番が違うだけじゃないか、と思われたかもしれません。しかし違います。書いている順番が違うだけではないのです。実は、利益というものに対するアプローチの仕方、思考方法が全く違うのです。
つまり、老舗は「先に利益を決める」のです。発想のスタート地点が「利益を1000万円残すには……」なのです。逆に言えば、「利益は……」から考えていない会社は潰れるのです。
では、「利益=コスト」とはどういうことでしょうか。これだけでは分からないと思うので、少し言い方を変えてみましょう。
「利益とは、会社を永続させるのに必要なコストです。つまり会社のエンジンを動かすためのガソリンです」
いかがでしょう? 少し分かってきたのではないでしょうか。そう、会社を回すためのガソリンが利益なのです。絶対必達で必要なガソリン(=費用)が利益なのです!
絶対にかかるコストなので、その分のお金を先に用意しておかないといけません。つまり絶対に確保・死守しないといけないお金なのです。
なぜ老舗が生き残るかというと、一般的な常識を覆すようなこの概念をよく理解しているからなのです。
いくら残すためにどう売上を上げて、どう経費を使うのか、と逆算して計算しているから、ほぼ間違いなく利益が残るのです。
この発想でやっているかやっていないかで、会社が生き残るか生き残れないかが決まります。
これは非常に重要なことなので、もう一度言います。
「利益とは、会社を永続させるために必要なコスト」です。会社を永く続けていくために絶対必要なコスト、それが利益なのです。
via www.amazon.co.jp
財務はおもしろい 老舗企業の思考から学ぶ、"百年続く中小企業経営"の教科書
¥1,800
「会社にとって財務とは何か」「会社を永く続けるとは何か」など、健康な会社経営のノウハウや老舗企業が100年続く経営の仕組み、財務の考え方から企業が永続的に続くための秘訣を学ぶことができます。
販売サイトへ
会計の基本を押さえておこう
会計には3つの種類がある
中小企業として永く生き残っていくことを考える場合には、老舗の持っている利益の考え方というものをしっかり身に付けていく、というのが財務戦略上の王道、セオリーです。この考え方を必ず身に付けてください。
その時に使うのが会計ですが、ここで会計の基本をお教えしておきましょう。
会計というものは大きく3つの種類に分かれます。財務会計、税務会計、管理会計の3つです。
1つ目の「財務会計」とは、債権者や株主など利害関係者に報告するための会計、つまり税理士の先生からもらう試算表のことです。皆さんが普段よく見ている決算書と言われるものの多くは、この財務会計にあたります。
2つ目の「税務会計」は、会社の税務申告のため、つまり税金を計算するための会計。3つ目の「管理会計」は、マネジメント会計(マネジメントアカウンティング)とも呼ばれ、経営者や経営幹部が自社の経営状態、財務状況を把握するための会計です。
利益を見る時には「管理会計」が必要
経営者の皆さんにとって最も重要なのは財務会計でも税務会計でもなく、3つ目の「管理会計」です。利益という点においては管理会計で全ての物事を見るということが重要で、経営者が知るべきなのは、管理会計をどのように行っていくのか、なのです。
今からこの管理会計に関する話に入っていきますが、管理会計を理解する上で絶対に必要なものがあります。それは次章で説明する「ビジョン戦略図」というものです。
これは私が独自に作ったものですが、この図があれば事業計画が簡単に作れます。非常にシンプルなものですが、事業計画における意思決定においてこれ以外の方法はないと言っても過言ではありません。
そして、このビジョン戦略図の概念を理解しないと、管理会計の入口にも立てないし、むしろこれこそが管理会計の基本なのです。この概念から全ての物事が始まっています。(次回へ続く)
書籍著者:壁谷 英薫さん
愛知県出身。一橋大学商学部在学中三年次に公認会計士試験合格。KPMGあずさ監査法人に入社、監査及びコンサルティング業務に従事。 製造業やサービス業の証券取引法(金融商品取引法)監査、会社法監査、米国上場企業の監査に携わる。大手銀行の国際会計基準の合併監査を手掛ける。入社四年目以降は大手商社などのコンサルティング業務に携わる。 2011年 壁谷公認会計士事務所設立。「子供達の目標となる、輝く大人が溢れる世界の実現」をミッションとして掲げ、会社のミッションとビジョンを作成し、ビジョン実現のための戦略作り、体制づくりの経営コンサルティングを会計面、経営面、税務面から提供している。 元のページを表示 ≫