京大、幸福と関連する脳機能を特定 fMRIを用いた史上初の試み

2019年8月28日 20:16

 ブッダやアリストテレスが取り組んできた「幸福とは何か」という問い。京都大学は26日、主観的な幸福と対応する脳活動と脳内ネットワークを明らかにしたと発表した。幸福が生み出される心のメカニズムを解明する上でのヒントを与えるという。

【こちらも】幸福を強く感じる人ほど特定の脳部位が大きい―幸福感の神経基盤を解明=京大・佐藤弥氏ら

■心理学で伝統的に調査された主観的幸福

 幸福は主観的な経験のひとつである。主観的幸福を調査する分野として心理学が挙げられるが、質問とそれに対する回答によって、各個人の感情や行動の傾向などが測定されてきた。主観的な幸福もまた、質問紙による安定的な計測が実証されてきた。

 その一方で脳と主観的な経験との対応に関する研究が近年行われている。磁気共鳴機能画像法(fMRI)等の装置により、脳の活動がどの部位で起きたのかを画像化できるようになった。これらの技術は、医学や神経科学だけでなく心理学等へも応用されている。

 主観的幸福に関しても、脳画像により、頭頂葉の内側に位置する右楔(けい)前部の「灰白質」と呼ばれる神経細胞体の存在する部位について、その体積との関連性が突き止められている。だが、この領域のどの活動なのかや、右楔前部とどの部位との相関が幸福と関連するかは不明だった。

■不安を生む活動の弱さが幸福につながる可能性

 京都大学こころの未来研究センターとATR脳活動イメージングセンタの研究者らから構成されるグループは、成人51人を対象として幸福度を質問紙で測定し、脳活動をfMRIで計測した。その結果、強い幸福を感じる人は右楔前部の活動が低いことが明らかになった。

 楔前部の活動は否定的な自己意識や心の迷いに関連することが、従来の研究から判明している。そのため、はたらきの弱さが幸福感の基盤になっている可能性があるという。

 また側頭部の内側にある「扁桃体」との関連も明らかになった。感情処理をつかさどる右扁桃体と右楔前部とのあいだの相関(機能的結合)が強いほど、主観的幸福の得点が高いことが判明した。このことから、感情を適切に統合することで幸福感が生まれる可能性が示唆されるという。

 研究グループによると、今回の研究は、主観的幸福と対応する脳活動と脳内ネットワークを、世界で初めて明らかにしたとものという。瞑想が楔前部の活動を低下させる等の先行研究と併せることで、科学的データにもとづいた幸福増進プログラムの作成が可能になると、研究グループは期待を寄せている。

 研究の成果は、国際学術誌Scientific Reportsのオンライン版にて20日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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