大腸菌が感染症を引き起こす方法 食中毒予防への扉を開く発見 米大学の研究
2019年8月21日 11:57
「病原性大腸菌は大腸内の酸素の少ない場所を見つけて、そこにコロニーを作り、毒素を放出する」という新事実を、バージニア大学医学部のM. Kendall博士とE.M.Melson博士が発見した。
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大腸菌は通常は毒性を持たず、人の腸内細菌(腸内フローラ)の主要な構成要素である。ただ、人に感染症を起こす種類もあり、これらは一般的には病原性大腸菌(下痢原性大腸菌)と呼ばれる。
病原性大腸菌は大まかに4種類に分けられている。その中には、O157(腸管出血性大腸菌)のように、ベロ毒素と言う強い毒素を出して重症化するものも含まれる。大腸菌は通性嫌気性菌と言って、酸素が無い環境が好きではあるが、酸素があっても生きていけるタフな性質。人の腸内で大腸菌は、小腸よりも酸素がより少ない大腸内を主な棲家にしている。
病原性大腸菌が悪さを始める時には、腸内の特定の場所に集まってコロニー(菌の集まりのことで、集落とも呼ばれる)を作る。そこで、それぞれの菌体からタンパク質と毒素が分泌され、下痢や発熱などの感染症が発症する。
コロニーを形成するためには、腸管に付着する必要があるが、どのようにして菌が人の腸に付着するのか?昨年、大阪大学の研究チームは、菌表面の繊毛が、菌から分泌されたタンパク質の橋渡しによって、腸表面の細胞に吸着する仕組みを解明した。
今回の研究では、大腸菌には、腸内の酸素レベルが特に低い場所を見つけ出す検知プロセスが備わっていることが示された。検知プロセスには、RNAの一種が関係している。酸素レベルが低い場所では、このRNAが特定の遺伝子を活性化して病原性が発揮されると言う。その場所での腸壁への付着には、橋渡しタンパク質が仲立ちする。
日本でも時々ニュースになる病原性大腸菌感染症は、発展途上国では深刻な問題となっている。WHOの統計によれば、年間30万~50万人もの死者が発生。しかし現在までのところ、決定的な治療法は見いだされていない。
本研究結果を基に、大腸菌の低酸素検知をブロックできれば、大腸菌が橋渡しタンパク質を分泌しなくなる。その結果、大腸菌を大腸内からスルーさせて感染を防止するという、これまでとは全く違った治療法の開発につながるかもしれない。またこの治療法では、大腸菌を直接攻撃するわけではないため、大腸菌に薬剤耐性が生まれる心配も無いと言う。
研究の内容は、米国科学アカデミー紀要に掲載されている。(記事:仲村晶・記事一覧を見る)