かんぽ生命の不正事件が焙り出す、日本郵政グループの企業風土

2019年8月10日 11:53

 かんぽ生命保険で2015~18年度の4年間に、保険業法になどに違反する法令違反が73件確認されていた。年度別では15年度16件、16年度15件、17年度20件、18年度22件を数え、増加傾向で推移していたことが分かる。

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 日本郵政グループがいくら大きな所帯であっても、毎月1~2件の法令違反がコンスタントに発生しており、コンプライアンス部門が不問に付すことは考えられない。組織として問題意識が共有されていなければ、コンプライアンス部門は機能していなかったことになり、健全な組織とは言えない。

 販売を担当する日本郵便では2015年、保険募集で違法な行為をした局員に適用する懲戒処分の基準を厳格化したというから、状況は把握していたようだ。ビンタばかりで浮かばれないと感じた末端の局員も少なくないだろう。

 法令違反が氷山の一角と考えれば、29の法令違反に至らない軽微な不正や不備があり、その背景に300の異常があると考えるのが、ハインリッヒの法則から学んだ教えだ。顧客の不利益を顧みないどころか、顧客に不利益を押し付けていた疑いのある契約が18万3千件あるということが、その証左と言える。

 不正を引き起こした原因は、低賃金と成果報酬にあると言われている。いわゆるノルマがきつくて顧客を欺く行為は、スルガ銀行で行われていた不適切なローンの取扱いで耳にしたばかりだ。

 スルガ銀行では、ローンの成約を求める上司が「家族を皆殺しにしてやる」とか「ビルから飛び降りて死ね」と迫ったというおぞましさが伝えられた。その代わり、書類を偽造しても、顧客に不誠実な対応をしても、契約に結び付けた担当者には成果に応じた報酬が支払われていたという。当時の社長は業務を執行役員に丸投げして、”雲の上の人”となり、現場で行われていたことに無頓着だった。聞こえないふりをしていたと見る向きもある。

 日本郵政グループでは、どんなやり取りで追い詰めていたのか聞こえてこないが、脅迫的な言辞があろうとなかろうと、顧客を踏みつけたと疑われる案件が18万3千件に上ることが全てを物語っている。

 17年4月~19年1月の間に、苦情を受けて保険料を全額返還した事例が1097件あった件に関して、7月31日の記者会見で日本郵政の長門正貢社長は「重大な認識を持ったのが6月で、それまでは不正を認識していなかった」と述べた。スルガ銀行の前社長とダブって見えるのは何故だろう。まるでデジャブだ。

 今秋と見込まれていた政府保有の日本郵政株売却は、難しい状況に追い込まれている。東日本大震災の復興財源として、期限が22年度までと設定されていることを考えると、経営陣は相当罪深い。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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