リスク分散に長けていたAppleを襲う、カントリー・リスクの罠!
2019年8月10日 10:01
米Appleの経営スタイルはなかなかユニークだ。iPhoneはAppleを象徴するスマホだが、Appleが製造している訳ではない。Appleは自社工場を持たず、他社に製造を委託する「ファブレス経営」を行っている。
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ファブレス経営のメリットは、顧客の動向に合わせて自社の望む製品の性能や納品のペースに対応出来る生産工場を、自由に選択出来ることだ。自前の工場を持たなければ、工場や設備に対する投資を削減出来るため、資金の固定化を回避しリスク抑制につながる。
設備投資に縛られない流動性の高い資金は、研究開発に集中投資が可能となり、他社との差別化に果たす効果は計り知れない。更には、生産工場間に納期の短縮やコストダウンを競争させる効果も期待出来るだろう。
デメリットは、独自に開発した製造ノウハウやテクノロジーが生産工場に筒抜けになることだ。委託会社が圧倒的な情報を持ち、日々革新するダイナミズムを継続していなければ、委託会社と受託工場の格差は確実に縮まってしまう。
しっかり者のAppleにとって、米中経済戦争の勃発は全くの想定外であった。トランプ米大統領が、矢継ぎ早に繰り出す対中制裁関税から巧みに身をかわしてきたAppleも、「第4弾」の制裁関税の照準にロックオンされた。
Appleの売上の半分を占めるiPhoneの生産を、今まで通り中国で継続すると追加関税というコストは避けられない。追加関税分をAppleがかぶって値引きするか、関税相当額をiPhoneの価格に転嫁するかという二者択一だ。利益が確実に減少するか、売上が確実に減少するという究極の選択を迫られることになる。
ファブレスメーカーのAppleにしても、高度なスキルが求められる生産工場を、右から左に変更することはできない。6月には生産シェア9割と云われる中国での生産比率を引き下げるため、主要な取引先に海外分散を求めたが、現在でも世界の30カ国、800カ所に分散している工場と、10兆円とも伝えられるAppleの調達額を支障なく分散するだけで、10年単位の期間が想定される一大プロジェクトだ。
米中貿易戦争が、Appleにどんなダメージを与えるのか、Appleにダメージを回避する奥の手があるのか、9月に発動される「制裁第4弾」が持つ破壊力が注目される。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)