郵便局の「時短ハラスメント」を批判できる会社はまだ少ない
2019年8月5日 16:02
ある新聞記事に、郵便局の配達現場で「時短ハラスメント」が横行しているという話がありました。
収支が厳しい中で、人件費削減が至上命令となっており、ある局では、幹部社員の厳しい指導によって、精神的に追い詰められた配達員の休職や退職が相次いでいるとのことです。
その結果の人員不足から、郵便物の遅配が常態化して苦情も寄せられているそうですが、それでも「残業せずに配達を終えろ」「なんでこんなに時間がかかるんだ」「人事評価を下げるぞ」などの叱責が続いていて、「常に余裕がなく、事故を起こさないか心配」「仕事のことを考えると胸が苦しくなる」と話す配達員がいます。
しわ寄せは配送業務を孫請けする個人事業主までおよび、ある人は契約にあった休日はなく、指定時間に間に合わないと罰金を取られるそうで、あまりの厳しさに続けられずに辞めたそうですが、他の同業者も次々辞めているそうです。
ここでの問題は明らかで、この時短対策が、「現場社員の締め付け」だけに終始していることです。
荷物の量は増え、時間指定などのサービス内容はそのままで、配達員の人数も場合によっては減っていて、しかし配達方法は変わらず、他の効率化策はなく、その中で労働時間だけ短くしろといわれても、できるはずがありません。
やっている対策は、建前としては、「上司の管理強化で現場配達員の無駄な仕事をなくして効率化する」ということですが、これで改善できるのは、今までの配達業務が時間を持て余すほど暇だったり、何かよほどの無駄やサボりがあったりした場合のみです。
他の配送会社の現場を見ても、そんな状況でないことは明らかで、そうなると時短の責任を現場だけに押し付ける「ハラスメント」であり、会社としては無策だといっても過言ではありません。
このことにについて、いろいろな人に聞いてみると、みんな口々に「ひどいね」と言いますが、この手の話は、「働き方改革」で長時間労働対策が言われて、ほとんどの企業が残業対策を実施するようになった当初は、よく目にした光景です。
今はずいぶん改善されたものの、それでも似たような話は、いまだに多くの会社で見聞きします。
ここでの本質的な対策は、やはり仕事量と労働時間と効率化のバランスをとることです。
今まで残業でこなしていた仕事は、労働時間が減れば基本的にできなくなるのが当然であり、それを解決するには、優先順位の低い仕事をやめることか、仕事自体のやり方を変えて効率化することしかありません。もちろん個人の努力も必要ですが、それだけで大きな変化を目指すことには無理があります。
具体的にやることは、「設備を変える」「過剰サービスをやめる」「社内手続きや事務を減らす」などが考えられますが、いずれも社員個人の努力でできることではありません。会社が仕事の削減や効率化を実行して、仕事量を社員の労働時間内でおさめるように調整しなければなりません。
今は多くの会社が、勤務形態の工夫や様々な業務のIT化、業務改善による効率化、サービスの見直しなどを行い、長時間労働対策を進めるようになりましたが、当初はこの郵便局でやられているものと大差ありませんでした。
「どうせ生活残業だろう」「仕事ぶりを見ていると無駄が多すぎる」「サボっている社員が目につく」などという経営者や幹部社員が大勢いて、その発想から実施される対策は、ただ残業時間の上限を区切って管理するような、「現場社員の締め付け」ばかりでした。
私が残業に関していろいろな人から話を聞いてきた中で、「他人がしている残業は“生活残業”だと言い、自分の残業は“仕事量で必要な残業”だと言う」との経験があります。自分はOKだが、他人の仕事ぶりはダメだというのです。時短対策が「現場社員の締め付け」に偏る一因ではないかと思います。
郵便局の「時短ハラスメント」のことを、批判できない会社はまだたくさんあります。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。