30個しか細胞をもたない寄生虫、複雑な生態がゲノム解析で明らかに 阪大など
2019年8月3日 07:17
タコの腎嚢(じんのう)に住むニハイチュウ。大阪大学は7月30日、30個の細胞しかもたないニハイチュウの生態がゲノム解析によって明らかにされたと発表した。
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■タコの尿から栄養を摂取するニハイチュウ
ニハイチュウは、単細胞生物である原生動物と多細胞である後生動物の中間に位置する中生動物だ。「腎嚢」と呼ばれる尿のたまる袋に寄生し、ニハイチュウは尿から栄養を摂取するという。
体は頭など3つの部分から構成されているが、海に生息するエビやカニ等の無脊椎動物と同じような体をもっていたことが最近明らかになった。ニハイチュウはエネルギーを節約するために不要な遺伝子を除いたり、腎嚢に住む個体数が増加すると無性生殖から有性生殖とへと切り替え、別の生息先となるタコを探すという。
■困難なゲノム配列の特定
沖縄科学技術大学院大学と大阪大学の研究者から構成されるグループは、ニハイチュウのゲノム解析によって複雑な生体の確認を行なった。ニハイチュウはタコに寄生しているため、試料からタコの細胞すべてを取り除くのは難しい。研究グループは洗浄を繰り返したのち、タコのゲノムDNAを抽出。両者の混在したゲノム配列からタコのゲノム配列を引くことで、ニハイチュウのゲノム配列が判明した。この工程には、2年の歳月を要したという。
ニハイチュウのゲノムを解析した結果、他の寄生動物と比較してゲノムの数が顕著に減少していることが判明した。体を構成するHox遺伝子は4つしかないという。研究グループによると、ニハイチュウがエネルギーを節約するために遺伝子を削除したのだと推測する。また、代謝や免疫、神経系の遺伝子をすべて自ら取り除くのだという。
「多くの寄生動物のゲノム配列が決定されれば、寄生動物の特異な遺伝子構成が明らかになるだろう」と、研究グループのメンバーのひとりであり、ニハイチュウ研究の権威である大阪大学の古屋秀隆准教授は述べている。
すべての動物に寄生する寄生虫は、ゲノム配列が単純なものから複雑なものまでさまざまだ。今回の成果が寄生動物の進化に洞察を提供するだろうと、研究グループは期待を寄せている。
研究の成果は、Genome Biology and Evolution誌オンライン版にて7月26日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)