一致しない宇宙膨張率、シカゴ大が新しい導出法を提案 カギは赤色巨星
2019年7月24日 11:49
宇宙の膨張率を示すハッブル定数。宇宙の年齢を推定する際にも用いられるが、導出方法により不一致がみられるなど、問題がある。米シカゴ大学は、赤色巨星を利用した新しいアプローチでハッブル定数の導出を試みた。
【こちらも】ハッブル宇宙望遠鏡、宇宙の膨張速度が9%速くなっていることを発見
■ビッグバン宇宙論の先駆けとなるハッブルの法則
アインシュタインは宇宙の重力場を記述するアインシュタイン方程式において、宇宙の大きさは不変だと仮定した。この仮定を覆したのがシカゴ大学を卒業したエドウィン・ハッブルである。銀河が地球から離れる「後退速度」が銀河までの距離に比例するハッブルの法則を発表し、ビッグバン宇宙論のきっかけとなった。
ハッブル定数の導出は、過去1世紀にわたり実施されている。1990年のハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げ以前にはハッブル定数の推定に幅があり、宇宙の年齢は100億年から200億年と算出された。しかしハッブル宇宙望遠鏡を活用することで、宇宙の年齢はより正確に算出可能となった。
ハッブル定数は、膨張と収縮を繰り返すことで明るさが変化する「ケフェイド変光星」の観測データをもとに求められる。ハッブル宇宙望遠鏡はこのケフェイド変光星をはっきりと観測できるため、年齢のより正確な算出が可能になった。
■天文学者を悩ませる定数推定の不一致
天文学者はより正確なハッブル定数算出に取り組む必要がある。宇宙誕生直後に発生した宇宙マイクロ波背景放射(CMB)に基づいたモデルで宇宙膨張率を算出すると、67.4km/s/Mpcとなり、従来のよりも値が小さいことが判明した。
ハッブル宇宙望遠鏡を活用して宇宙膨張率の算出に長年取り組んだシカゴ大学のウェンディ・フリードマン教授によると、不一致の原因はケフェイド変光星に関して十分理解されていないか、宇宙のモデルがなお不完全かのどちらかだという。そこでフリードマン教授はハッブル定数の新しい測定方法を提案した。
■赤色巨星でハッブル定数を算出
研究グループが着目したのが、近傍の銀河にある赤色巨星だ。太陽の数十憶年後の姿でもある赤色巨星は、ある時点で「ヘリウムフラッシュ」と呼ばれる1億度もの温度上昇が発生する。この時点を境に赤色巨星へと星の構造が変化し、温度が低下するという。そこでヘリウムフラッシュが発生する段階での赤色巨星の見かけの明るさを、異なる銀河で測定し、その間の距離を計測した。
ハッブル宇宙望遠鏡で赤色巨星を観測した結果、宇宙膨張率は70km/s/Mpcだと判明した。ケフェイド変光星によるハッブル定数は74km/s/Mpcで、CMBによる値よりも不一致は小さい。
フリードマン教授によると、不一致は残るが、宇宙のモデルに根本的な欠陥があると結論を下すには十分ではないと述べている。
研究論文は米天文物理学誌Astrophysical Journalに受理され、詳細がプレプリントサーバーarXivにて公開中だ。(記事:角野未智・記事一覧を見る)