5Gへと進む携帯電話業界で、新規参入ながらフォローの風を受ける楽天 (2-2)

2019年6月7日 09:10

 3大キャリアが設備全体を一気に5G仕様に変更しないのは、膨大な投資が必要なためである。楽天が1年後の21年にソフトのアップデートで5Gに対応しようとしていることとの差は大きいが、「本当に可能なのか」と楽天の方針に冷ややかな視線を向ける専門家がいるのも事実で、「利用者の増加につれて汎用サーバーの制御が追い付かなくなる」との懸念を示す向きもある。

【前回は】5Gへと進む携帯電話業界で、新規参入ながらフォローの風を受ける楽天 (2-1)

処理の停滞が、サーバーダウンにつながり、通話の途絶という障害が起きればイメージダウンは避けられない。そういう懸念があるから、現在まで世界の通信ネットワークが仮想化されなかったのだと言うこともできる。楽天がチャレンジするのは、今まで想定されて来たリスクが、事業化する上での障害とはならないほど縮小されたと考えるべきだろう。

 基幹的通信網から末端基地局網までを全て仮想化するのは世界初の試みであり、投資を大幅に抑制した楽天のシステムが成功した場合には、世界の通信業界に構造変革を迫るインパクトを持つ。何しろ5Gに向かっている世界の通信キャリアにとって、通信ネットワークを仮想化することは夢のような話なのだ。

 楽天のネックは後発であるがゆえに、4G基地局が先行3キャリアと比較して圧倒的に少ないことだ。18年3月末の4G基地局数はドコモが約20万局、ソフトバンクが約13万局、KDDIが約12万局であるのに対して、楽天の設置計画では26年3月末になっても約3万局弱に止まっている。

 ところが、日本政府が6月中旬に閣議決定すると見込まれる新たなIT(情報技術)戦略の中で、全国の約20万基にのぼる交通信号機を楽天を含む国内通信4社に開放し、5Gの基地局として利用可能となる見込みであることが分かった。

 20年度から複数の都市で信号機の5G利用実験を開始し、23年度には全国展開に進むことが期待されている。5Gの電波の飛ぶ範囲は4Gと比べると狭いため、つながり易いネットワークを構築するためには、今までよりもきめの細かいエリア展開が必要と見られていた。

 全国の20万基にのぼる信号機が通信基地局に提供されると、通信各社は基地局設置のスピードと設置費用の削減で大きな恩恵を受けることになるが、その中でも楽天が一番大きなメリットを受けることになりそうだ。自社が6年かけて開設する予定だった基地局合計の8倍近い基地局が、3年も早く23年には利用できる見込みが出てきたのである。

 仮想通信システムの採用により格安な費用で携帯電話事業に参入しようとしている楽天が、信号機の解放により一気に20万基もの基地局機能を手に入れる機会に恵まれることは、楽天の携帯電話事業に吹くフォローの風と言って良いだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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