火星地中に埋まった氷が気象変動の歴史を明らかにする 米大学の研究
2019年5月30日 17:26
地球に似て、岩石や砂で覆われている火星。極域もまた地球同様氷で覆われ、「極冠」と呼ばれる。米テキサス大学オースティン校は、火星の極冠から約1キロメートル下に、氷河期に形成された氷の層が埋まっていることを発見したと発表した。この発見は、火星の気象変動の歴史を知るうえで、有力な情報になると期待される。
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■火星の気象変動の原因
火星にはかつて氷河期が存在した。火星の軌道や傾斜が気候の変動を生み出すことが、その理由である。過去約5万年にわたって、太陽に傾斜していた火星はこまのように自転しながら、直立した状態へと戻った。
この氷河期に生まれた極冠は火星が暖かくなったため、溶けてしまいすでに消失したと考えられてきた。だが今回、バームクーヘンのように氷と砂とが交互に存在する帯から、氷河期の氷が発見された。
研究グループは、「マーズ・リコネッサンス・オービッター(SHARAD)」と呼ばれる米航空宇宙局(NASA)が運営する火星探査機からのデータを活用した。SHARADは2006年に火星へと到達し、周回軌道を公転している。このSHAREDに搭載されたレーダーは火星の地殻から約1キロメートル下に存在する液体や氷を観測可能で、今回の発見へとつながった。
氷が火星の地中深くに残った理由として、氷河期にできた極冠部分の氷が砂によって覆われることで、太陽熱から氷を守り、大気中への消失を防いだと研究グループは指摘している。
■氷の層から明らかになる気候変動
木の年輪は1年ごとに層が増えるが、気候によってその厚みが変化するため、気候変動を知るのに役立つ。木の年輪同様に、氷の層から火星の過去の気候変動が明らかになる。さらに火星の過去の気候が、生命にとって好条件かどうかまで判明するという。
今回の探査で、約90%が水である層が極冠の地中に存在することも明らかになった。今回極冠で発見された地中に埋まった氷が溶けてしまうと、火星を覆う深さ約1.5メートルの海ができるという。
極冠の地面深くに残った水分の割合を知ることは、火星が将来人類の居住に適しているか知るうえで重要だという。研究グループを主導する同大学のStefano Nerozzi氏によると、水のほとんどが極冠の地中深くに閉じ込められているならば、赤道近くで十分な量の液体水が存在する可能性は低いということだ。
研究の詳細は、米地球科学誌Geophysical Research Lettersにて22日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)