渋沢栄一「論語と算盤」が現代の経営者に問いかけるもの
2019年5月27日 15:48
新一万円札の肖像に、幕末期から昭和まで生きた実業家・渋沢栄一が決定した。第一国立銀行(現・みずほ銀行)など約500の会社の設立に関わり、「日本の資本主義の父」と呼ばれる渋沢は数多くの著書を遺しているが、そのひとつ「論語と算盤」を今回紹介したい。1916(大正5)年に出版された同書は、1世紀を経てなお、令和時代を迎えた現代の経営者にも大いに参考になる普遍性を持っている。
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■人間力の研鑽と利益追求の両立
「論語と算盤」は単に論語の注釈や算盤のノウハウを述べているわけではなく、論語を道徳、算盤を経済の象徴に見立て、「論語を通して人間力を磨くこと」 と 「資本主義で利益を追求すること」 の両立を説いたものだ。
人の上に立つリーダーとしての人格形成と、組織を背負う者ものとして利潤を上げることは、リーダーには欠かせない要件。両者が偏ることなくバランスを保つことの重要性を、シンプルなタイトルが表している。
■論語に凝縮された経営者の心得
渋沢が論語を重視したのは、「どんな時代でも変わることない人間と社会の本質」を突いているからだとしている。古くから読まれ続けている書物にはいつになっても通用するメッセージが内包されており、特に論語は、渋沢自身が愛読したように、それぞれの時代のリーダーや偉人が座右の書としてきた歴史がある。
「温故知新」をはじめ、志を立てることの大切さ、部下との向き合い方など、経営者にとって必要な心得が論語には溢れている。人格を磨く格好の教材として、論語は現代でも光輝いている。
■利益が長続きするには
「金儲け」に批判的な旧来の論語解釈に疑問を抱いた渋沢は、金銭を卑しむ思想は人々から活力を奪い国家も衰えるとして、道義を伴った利益を追求することを述べている。ビジネスを通して利益を出すことで社会を潤して国を豊かにし、廻り回って社会サービスやインフラなどの恩恵を受けとるのが、健全な資本主義経済に他ならない。
しかし渋沢は、事業には「誠実さ」が不可欠といい、「不誠実な振る舞い」から得た利益は一時的で決して永続しないと警鐘を鳴らしている。実際に誠実さを欠いたがゆえに衰亡した企業の例は枚挙にいとまがない。正しい行動から得た成功が真の成功と渋沢は諭しているのだ。
■色あせない渋沢栄一の教え
渋沢が語ったことは、現代でも全く色あせない。渋沢が生きた時代と現代とでは、テクノロジーが格段に進歩し社会構造は大きく変化したが、人間の心のあり方、正しい生き方には時代を超えた原理原則が存在することを「論語と算盤」は教えてくれる。
現代を生きる経営者にとって偉大な先輩である渋沢栄一。新札発表で注目が集まる今、「論語と算盤」を、手にとってみてはいかがだろうか。(記事:岡本崇・記事一覧を見る)