日産の経営統合問題 (3) 奥の手はあるか? ルノーのディーゼル不正に下り坂の日産経営
2019年5月17日 17:15
日産は、企業統治の改革について、専門委員会がその方向性を検討していたが、3月に「経営の監督と業務執行の分離」する提言が公表され、「指名委員会等設置会社」への移行を6月の定時株主総会で提案する。
【前回は】日産の経営統合問題 (2) 「経営統合」の本格化とゴーン元会長の疑惑解明は同時進行形だった
「指名委員会」「報酬委員会」「監査委員会」を設置することで、ガバナンスへの懸念の払拭を狙っている。指名委員会が設置されたからと言ってガバナンスが自動的に始まるわけでないことは、ガバナンス問題で世間を騒がせている”LIXIL”を見るまでもないが。
日産とルノーの今後の関係を協議する上で大きな障害となっているのが、両社のいびつな株式保有状況である。ルノーが日産の株式の43%を保有するのに対して、日産はルノーの株式の15%を保有するに過ぎない。更に、日産の保有するルノー株には議決権がない。
現在の株式保有率のままでは、ルノーやフランス政府の発言力が日産を凌駕することは言を俟たない。今後のアライアンスに関わる協議を日産が忌避するのは自明のことだ。だがルノーとフランス政府が、自らの発言力低下を招いてまで、日産との対等な関係を許容することも考えにくい。
つまりこのままでは、いつまでも協議を開始することができないところに、13日の「経営統合」報道の淵源があるのだろう。苛立つルノーの関係者がマスコミにリークして、観測気球を揚げていると見られる。
日産に残された奥の手としては、日本の会社法の規定でルノーの議決権を消滅させることが出来る25%までルノー株を買いますことだが、これは返り血も浴びかねない最後の手段だろう。日産の経営に関しては、15年12月にフランス政府が関与せず、「不当な干渉」があればルノーへの出資比率を上げる権利があることが確認されている。
14日には、ルノーのディーゼル車に排ガスに含まれる汚染物質の量を意図的に操作するシステムが組み込まれていたと、フランスの研究機関が結論付けたことが伝えられた。17年にドイツの広範な自動車メイカーで行われていた排ガス不正問題に酷似した事例が、ルノーで発生していたと連想させられる報道だ。
日産とルノーが立ち会う前の睨み合いを続けている真っ最中に、ルノーの顔色をなさしめる報道だ。続報はないが、この問題の展開は日産とルノーの微妙な関係に、大きな波及効果を及ぼすことになるだろう。
日産は同日、19年3月期の連結決算の営業利益が前期比で44%減少したことを発表した。同時期の経営計画上で目標としていた営業利益率は8%だったが、実績は2.7%に終わった。
建前上では経営の不甲斐なさを指摘する声も多いが、以前から不振だった北米での状況や、ゴーン事件を抱えて着地点が相当低レベルになることは、事前に予想されていたことだ。決算発表はその確認作業でもある。問題は新たに設定された「22年度に6%」という営業利益率を、達成する手立てがあるのかということだ。
日産は16日付で「執行体制」を刷新した。6月末に迫る定時株主総会で、大株主であるルノーへの牽制として、現在可能な対抗策を実施しているということだ。
日産が乗り越えるべき第一の関門は、6月に開催される定期株主総会だ。ゴーン事件、ルノーとのアライアンスの問題、経営不振問題と数多くの深刻な問題を背景に、大株主であるルノーの動向が注目される。民間企業である日産が、フランス政府の意向を背景にしたルノーと渡り合えるのかという大きな問題が迫っている。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)