日産の経営統合問題 (2) 「経営統合」の本格化とゴーン元会長の疑惑解明は同時進行形だった
2019年5月17日 16:45
日産の社内では、ゴーン元会長が「統合」へと舵を切りつつあることを感じ取っていたものの、表立って反対を表明できる人もタイミングもなかった。これまでも、ゴーン元会長へ反論を試みた有為の人材が、明らかな左遷と思われる境遇に追い込まれていたことは、日産の社内で知る人も多い。
【前回は】日産の経営統合問題 (1) 「経営統合」はルノーが20年間待ち続けた念願のゴール
ゴーン元会長が「統合」を提案する前に、反対を表明してもとぼけられて冷や飯うことになる。もし取締役会の議案として段取りが整っていた場合には、疑心暗鬼になって、横のつながりを持ちえない他の取締役との間に、反論の広がりも期待できない。ルノーとの「経営統合」を潔しとしない人材にとって、まさに切羽詰まった状況にあった。
ところが、ルノーが会長職の検討を続けていた時期に、日産では同時進行でゴーン元会長の巨額な不正事案の調査が秘かに始まっていた。その後ゴーン元会長が再三逮捕されたことでも明らかなように、「統合」への動きを止めるために仕組まれたチャチな着服事件とはわけが違う。重大な運命の岐路にあったゴーン元会長は、日産への出社回数が極端に減少していたため、自分を取り巻く危機的な状況への認識が全くなかった。
その後の報道はゴーン元会長の巨額な不正事案を、まざまざと浮かび上がらせている。もちろん、推定無罪の原則があること、マスコミの報道が検察の筋書きに乗る傾向が強いことを考えると、司直の裁きに先走ってゴーン元会長を断罪することは避けるべきだ。そうは思っても、目も眩むような巨額な不正事件である。
当初はゴーン元会長の逮捕に反発している気配すら感じさせたフランス政府やルノーも、ゴーン元会長抜きで不可逆的な関係を構築する道を探り始めた。
1月、フランスのルメール経済・財務相が日産とルノーの提携問題について「保有株式のバランスを取ることや、株式の持ち合いの変更は議題に上がっていない」と語ったことが伝えられている。関係見直しを期待する日産に対するけん制球だ。
また同時期に、フランス政府の代表団が来日した際、既に共同持ち株会社方式を軸としてルノーと日産を経営統合させる意向を、日本政府関係者に伝えている。この時来日していたフランス政府出身のルノー取締役、マルタン・ビアル・ルノー氏らは上記の統合構想に加えて、持ち株会社の傘下に両社をぶら下げる案を示し、同時にゴーン元会長が解任されて空席のままの日産の会長職をルノーが指名する意向まで伝えたという。
当時ルノーの会長兼最高経営責任者(CEO)は、フランス政府が主導してゴーン元会長の後任者を探していると伝えられていた時期であるが、ルノーのCEOが未定でもルノーの日産に対する基本方針はその時既に伝えられていたことになる。
ルノーとフランス政府のこうした姿勢に対して、日産は「時期尚早だ。その議論をする前にやるべきことがある」という姿勢を堅持してきた。尚、3月にルノーのスナール会長を日産の取締役会の副議長として迎え入れる発表を行い、スナール氏をトップに戴かない姿勢を明確にしたが、議長職の人選が円滑に進んでいないことには不安の種が残っている。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)