死の谷の問題を解決 宇宙機用の多品種少量の半導体生産に成功 JAXAと産総研
2019年5月13日 18:32
優れた技術でありながら、それが製品化につながらないのが「死の谷の問題(デスバレー)」。大量生産が望まれる半導体分野では開発や設備への投資の費用が巨大化しているため、大量に生産される予定のないデバイスの開発や製造は不可能になりつつある。
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宇宙航空研究開発機構(JAXA)と産業技術総合研究所(産総研)は10日、「ミニマルファブ」と呼ばれる少量の生産システムにより、宇宙機に搭載される集積回路が製造可能であることを世界で初めて実証したと発表した。
■多品種少量生産に対応するミニマルファブ
ミニマルファブは産総研が提唱するシステムである。半導体工場に限らず、医薬品工場や印刷工場などでは、異物が混入しないように空気が清浄なクリーンルームが設置される。とくに半導体工場では、金属原子などの混入を防ぐため、求められるクリーンルームの清浄度は非常に高い。
ミニマルファブでは、装置を小型化しクリーンルームを不要にすることで大幅な省エネ化が図られる。1ライン当たりの投資額が従来の1000分の1の5億円程度に、半導体製造に欠かせない材料である「ウエハー」のサイズも、従来の1000分の1の0.5インチ程にできる。これにより、多品種少量の半導体生産にも対応可能だという。
■宇宙機に対応した放射線に耐える集積回路が製造可能に
人工衛星など宇宙機に使用される集積回路の規模は、1機当たり数個から100個の間だという。年間数百万個という大量生産が求められる半導体製造方式の場合、このような少量での生産はコストがかかる。
JAXAと産総研は、宇宙機に搭載する集積回路をミニマルファブで対応可能かの検討を実施。産総研が開発したミニマルファブ用のトランジスタ技術「Technology 2018」を活用し、JAXAが宇宙機システムの実現に必要な論理回路のひとつであるNANDゲートや、1000トランジスタ規模の集積回路の設計と試作を行い、その動作に成功した。この検討は、宇宙機用で重要になる放射線にも耐えうる集積回路が製造可能かの検証も兼ねている。
今回の研究成果を踏まえ、製造した集積回路を宇宙機に搭載という実用化に向けた検討が続けられる。また宇宙開発だけでなく、IoTなど幅広い産業分野への応用も期待されるとしている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)