晩年のレオナルド・ダ・ヴィンチは右手が麻痺していた可能性
2019年5月7日 11:07
●創作活動が困難になった晩年
2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチが亡くなって500年にあたる。各国でこれにちなんだイベントが催されるほか、さまざまな研究も発表されている。
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レオナルド・ダ・ヴィンチの晩年の疾病についての研究も、そのひとつである。彼は晩年、病苦のために制作の速度が鈍ったといわれている。代表作『モナリザ』が未完とされているのも、この理由に依る。過去の研究では、レオナルドは晩年に脳卒中の発作に襲われたというのが通説であった。
しかし今年に入ってからの研究で、神経損傷による麻痺であった可能性が発表された。16世紀に描かれたレオナルドをモデルにしたという作品を、2人の医師が分析調査した結果であるという。
●古文書に残る半身不随の記録
レオナルド・ダ・ヴィンチが、おそらく右側の半身不随で苦しんでいたことは当時彼の周辺にいた人々の手紙にも記されている。
亡くなる2年前の1517年に書かれたある枢機卿の手紙には、レオナルドは体が不自由であるため以前のような創作が不可能となり、弟子たちの手をかりて絵を描いていると書かれている。
10年ほど前、レオナルドの研究者であるアレッサンドロ・ヴェッツォージは、レオナルドは食生活が原因の脳卒中の発作に襲われて右手が麻痺していた可能性があると発表した。
●現代の整形外科医と神経科医の診断は
16世紀にミラノで活躍した画家ジョヴァン・アンブロージョ・フィジーノが残したといわれる作品に、レオナルドをモデルにしたと伝えられるものがある。一般公開されていないこの作品は、現在ヴェネツィアのアカデミア博物館が所蔵している。
言い伝えによればこの作品は、レオナルドをモデルにした彫刻(現存はしていない)を写したものだという。作品の中で、レオナルドの右手は包帯のようなもので首から吊られている。
この作品を研究した整形外科医ダヴィデ・ラッゼーリと神経科医のカルロ・ロッシは、その右手の変形に注目した。その形状は、脳卒中後遺症による筋痙地による変形ではなく、尺骨神経麻痺によるものであると判断したのである。
2人の医師の推測では、おそらく右の肩から手にかけての筋肉は動かせなかった可能性が高い。
●最晩年まで制作活動は継続
しかし右上肢の麻痺は、認知障害や他の運動障害を誘発することはなかったようだ。その後も、速度は落ちたとはいえ創作活動は継続し、弟子たちにも教えていたことが当時の記録で証明されているためである。