【小倉正男の経済コラム】M&Aとシナジー作用
2019年4月11日 14:14
■「創薬はおカネがかかり過ぎる」
先日、創薬メーカーをグループ内に持つ企業経営者とこんな話をした。その企業は中期計画を発表したのだが、創薬以外のセグメントは大幅黒字で稼いでいるが、創薬は大幅赤字という説明だった。
「創薬事業のほうは、将来に楽しみはあるにしてもなかなか黒字化は難しい。経営努力を注ぎ込んでいるのだが、黒字化のメドがみえそうでなかなかみえない。創薬はおカネがかかり過ぎる」
その会社はM&A(合併・買収)を武器にコングロマリット形態のホールディングカンパニーとして成功を収めている。 創薬のようなおカネを食うセグメントをインキュベートするには、最適な企業形態にみえるのだが・・・。
しかし、企業経営者にしてみれば、「全体の稼ぐ力との見合いで赤字部門の育成を考えなければならない」と厳しい見方を示していた。先々に夢があってもずっと赤字では全体の収益力の足を引っ張ることになりかねないというニュアンスだった。
創薬企業のなかにはようやく独力で黒字化を果たす企業がいくつか出てきている。内外の大手医薬品企業と開発・販売で提携して技術導出を図り収益黒字化にメドをつけている。 国・厚生労働省も創薬を国策として支援しているのは事実だ。だが、創薬で結果を出すのは「千三つ」というか、極端なレアケースであり凄いことである。
■経営ツールを使いこなせない経営者
ホールディングカンパニー、M&Aの一般化で様々な業種をグル-プに持つ企業が増えている。
なかにはM&Aで会社を買い込むだけ買い込んで赤字に苦しむ企業もないわけではない。経営者は、「シナジー効果」といった言葉を多用して説明などするのだが、どうしたことかさっぱりシナジーがないケースもある。
ホールディングカンパニー、M&Aというツールも経営力や経営眼がなければ結果は出せない。
結局、M&Aで会社を“買う”のが好き、会社を“持つ”のが好きという「持つ経営」では赤字を生むだけである。経営のツールは様々あるとしても、それを使いこなせない企業&経営者はやはり沈んでいくことになる。
■M&Aというツールとシナジー効果
冒頭に取り上げたコングロマリット形態の企業などシナジー効果をしっかり考えたM&Aを行っているケースだ。
グループ内にペン先では世界的な企業を抱えている。ペン先では、世界市場で圧倒的なシェアを押さえている。そのうえで今年前半に筆ペン・アイライナーの老舗企業のM&Aを行っている。
ペン先では世界的な企業だが、筆ペン・アイライナーには実績がなかった。国内のコスメ事業に進出できる。これは念願だったということである。
筆ペン・アイライナーの老舗企業は、国内では強いが、海外は弱かった。ペン先で世界市場を制圧してブランドを築いているだけに筆ペン・アイライナーの世界化をサポートできる。双方のシナジー作用が期待できるというわけである。
M&Aで成果を出している企業、逆に成果どころか赤字を出している企業――。経営者も成功や失敗がつきまとうが、しっかり考え抜かれていない経営ではやはり手酷い結果を招いている。
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て現職。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)