ダークマターは原始ブラックホールではない 観測的に初めて明らかに 東大など
2019年4月4日 20:18
故スティーヴン・ホーキング博士は、ダークマターは原始ブラックホールであるというアイディアを遺した。ダークマターの正体については諸説あるが、東京大学、大阪大学、東北大学などから構成される国際研究グループは、アンドロメダ銀河と天の川銀河のあいだに存在するダークマターが、原始ブラックホールでない可能性が高いことを観測的に初めて明らかにした。
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■ダークマターの正体は謎
光を発しないために、直接観測できないダークマター(暗黒物質)は、その巨大な重力により星々を離散させず、銀河内に留める。宇宙には、我々が知っている目に見える通常の物質はごくわずかしかなく、ダークマターは通常の物質の約5~6倍は存在すると考えられているが、その正体は未だ謎のままだ。ダークマターの最有力候補のひとつが未発見の素粒子だが、加速器実験でもその手がかりは掴めていないという。
ダークマターのもうひとつの候補が原始ブラックホールだ。ホーキング博士が1970年代に最初に提唱した原始ブラックホールは、宇宙が高温かつ高密度だった宇宙初期に形成されたと考えられている。
研究グループが着目したのは、アンドロメダ銀河と地球のあいだの宇宙空間だ。約260万光年の距離に相当する宇宙空間には、大量にダークマターが存在すると考えられる。原始ブラックホールがダークマターだと仮定すれば、沢山のブラックホールが観測されることになる。
■広い視野を捕らえるすばる望遠鏡のカメラ
研究グループは、米ハワイ島にあるすばる望遠鏡を使い、アンドロメダ銀河の画像を解析した。すばる望遠鏡にある超広視野主焦点カメラ(HSC)は合計8億7,000万画素をもち、満月9個分の広さの天域を一度に撮影できる広い視野をもつ巨大デジタルカメラである。HSCを活用すると、従来のカメラでは観測が不可能だった暗い天体が高解像度で撮影可能になる。
ブラックホールの存在を検証するために着目したのが、重力レンズ効果である。原始ブラックホールがアンドロメダ銀河の星に近づけばその星は明るく見え、逆にブラックホールが星から遠ざかればその星は暗く見えるため、星の明るさが特徴的な時間変化を示すという。
研究グループは2014年11月23日の夜、約7時間にわたり約2分間隔でアンドロメダ銀河の連続画像をHSCで取得した。画像の解析結果から、明るさが変化する星が約1万5,000個発見された。ダークマターが原始ブラックホールであると仮定すると、約1,000個の重力レンズ効果が発見できると予測されるが、実際にはそのような天体は1個しか観測できなかった。
今回の検証により、観測的に初めてダークマターの正体が原始ブラックホールであることが棄却された。ただし研究グループが発見した重力レンズ効果を示す1個の天体が、本当の原始ブラックホールによるという可能性も残される。その場合は大発見となることから、研究グループによる追観測が期待される。
研究の成果は1日、英天文学誌Nature Astronomyにて掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)