何故、伊藤忠商事はデサントに”敵対的”TOBを仕掛けているのか? (3-3)

2019年2月14日 21:24

 18年6月には伊藤忠商事の岡藤会長が直接デサントに対して、最後通牒とも言える申し入れを行ったが、不調に終わった。この際のやり取りは、「伊藤忠のドン岡藤会長の"恫喝テープ"」というテーマで週刊文春の10月25日号の記事に取り上げられるオマケまでついた。

【前回は】何故、伊藤忠商事はデサントに”敵対的”TOBを仕掛けているのか? (3-2)

 18年8月には伊藤忠商事が25%の株式を保有する持ち分法適用会社のデサントに対して、買収提案により事実上の子会社化を促したところ、デサントの拒否にあい頓挫している。その後伊藤忠商事は独自の判断で株式の買い増しを行い、保有比率を高めて来た。8月に近畿財務局へ提出した大量保有報告書では保有比率が27.7%になっていた。

 伊藤忠商事からの買収提案に対して、デサントは包括的な業務提携をワコールホールディングスと結ぶという対抗策に打って出た。この提携はデサントの取締役会での緊急動議で決せられたが、重要事項であるにも拘らず伊藤忠商事からの出身取締役には事前通知がなされなかった。スポーツ用品の会社と、女性向けインナーの会社の提携のため、両社の取扱商品には重複がほとんどないことが特徴である。加えて、欧米に強いワコールとアジアに強いデサントが提携することで、グローバルメリットまでイメージされる組み合わせではある。

 伊藤忠商事は業務提携に対するデサント側の見解を求めながらも、「真摯な対応がない」との思いを強めてその後もデサント株の買い増しを進め、10月15日には29.8%(議決権ベースでは3割超)に到達した。

 11月にはMBO(マネジメントバイアウト)によって上場廃止を行う検討を進めていることが、デサントから伊藤忠商事に伝えられた。MBOによってデサントの現経営陣が大株主になるため、伊藤忠商事のくびき(馬などを馬車につなぐための道具)を離れことができる。「経営方針に口を挟むな」という明快な意思表示であろう。デサントのこの通知が、伊藤忠商事が最後まで留保していた、TOBを決断させる契機になったと見ていいだろう。

 相手企業の了解を得ないで進める株式の公開買い付け(TOB)は、日本には馴染まない敵対的TOBとしてタブー視されて来た。今回、伊藤忠商事が敵対的TOBに踏み切った背景には、当事者ならではの思いがあるだろうし、本件の記述の中にも両社のぎこちなさを感じさせる局面はいくつかある。

 伊藤忠商事は株式を4割保有すると、株主総会で重要事項へ拒否権を行使できることになる。3月14日の買い付け期限まで、1月末の直前株価より50%高い1株当り2800円で購入するというのであるから、今のままならTOBが成立することは間違いなさそうだ。

 中国でデサント商品を販売するのは、中国におけるスポーツ用品大手の「安踏(ANTA)」だ。その経営者の資産管理会社は17年の秋にデサント株を7%弱保有していた。伊藤忠商事はデサントの中国での積極的な店舗展開を望み、ANTAはそのビジネスモデルを担うことになる。今でも保有株式に変化がなければ、TOB後には伊藤忠商事とANTAの保有株式数は合計で47%になる可能性がある。議決権行使が100%になることはないため、47%の株数は実質的に過半数とも言えるのだ。そうなれば、デサントの次回定時株主総会では、石本社長ら現経営陣の処遇は伊藤忠商事の岡藤会長の腹一つということになる。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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