ゴーン被告の遅すぎた現状認識 逮捕された時には”ただの人”だった
2019年1月23日 21:00
カルロス・ゴーン被告が11日に出した最初の保釈請求では、保釈後の住居としてフランス国内か駐日フランス大使公邸を希望していた。
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同時に逮捕されたグレッグ・ケリー被告の保釈に当たっては、(1) 海外への渡航禁止 (2) 裁判所の求めに応じて出頭すること (3) 証拠隠滅をしないこと (4) パスポートは弁護士が管理すること (5) 事件関係者と接触しないこと (6) 日産の株主総会や取締役会へ出席する際には裁判所の事前の許可が必要、との条件が付されていた。
罪状の軽重や健康状態をも勘案したであろうケリー被告への条件と比較すると、ずいぶんと高飛車な希望であり、あえなく棄却された。
10日後の21日には、ゴーン被告の家族の報道担当者が「保釈のためのあらゆる条件を受け入れる」とする声明を発表した。
ゴーン被告の「あらゆる条件」には、東京都内の賃貸住宅に住んで、(1) 自分で取り外しのできないGPS発信機等を身体に装着して、所在がリアルタイムに判明できるようにしておく (2) フランス、レバノン、ブラジルの3カ国のパスポートを預ける (3) 検察庁に毎日連絡を取る、などの具体例を挙げている。国際社会に対するアピール要素が強いと考えても、ずいぶん謙虚な姿勢に転換したものだ。
ゴーン被告が保釈への姿勢をより現実的な条件に近づけたのには、自身に迫りくる捜査状況をより切実に感じられる状況になったからだろう。
ゴーン被告にとって、役員報酬の先送りや「為替スワップ契約」絡みの日産への付け替え、ハリド・ジョファリ氏との金銭のやり取りは釈明が可能なものと考えていた節がある。8日に、拘置理由の開示を求めて、自身の意見をアピールするための舞台としたことも、強い調子で「自分は無実だ」と力説したことも、牽強付会(自分に都合の良い理屈)の意味合いが濃厚だったとは言いながら、まだ余裕が感じられた。
10日にはゴーン被告がフランスの富裕税から逃れるために、税務上の居住地をオランダに移していたことが報じられた。フランスでは税金を逃れようとして国外へと税務上の居住地を移転する富裕層の動きが大きな社会問題となっていた。18年11月にゴーン被告が逮捕された直後に、ゴーン被告のフランス国内での納税状況を質問されたルメール経済・財務相が、「特別なことはない」と説明したことに対しても、「本当に知らなかったのか」と探られる事態となり波紋を広げている。
15日になると、フランスの大手紙が掲載した「ゴーン被告が日産の費用で家族をどれだけ優遇したか」と言う内容の記事がフランス社会で物議を醸し、日産の内部調査の情報は労働組合を刺激している。更に、ルノーの有力労組「CGTルノー」の代表者は、フランス政府が進めようとしている経営統合に対して、重複部分の廃止が雇用機会の減少につながるとして、反対の意思を表明している。コストカッターとして畏怖されたゴーン被告は、自らへの利益誘導が度々明るみに出ることで、堕ちた偶像という表現が相応しい存在となり果てたようだ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)