NEC、「原子スイッチ」FPGA 宇宙空間で放射線耐性や書き換えを実証実験
2019年1月20日 19:11
NECは18日、「原子スイッチ」搭載NanoBridge FPGA(NB-FPGA)をJAXAがイプシロンロケット4号機で打ち上げた小型実証衛星1号機に搭載し、宇宙空間での動作の信頼性を実証実験すると発表した。
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NECは2017年10月19日、「原子スイッチ」搭載FPGA(Field Programmable Gate Array)のサンプル製造を開始。一般的なFPGAはSRAM(Static Random Access Memory)をベースに演算回路や記憶回路を構成するアーキテクチャーを持ち、製造現場でこのFPGAをプログラムにより、専用用途の半導体へと書き換える。
数十年前までは、ASIC(Application Specific IC)やSoC(System on a Chip)がこの専用半導体市場を圧巻。FPGAはASICやSoCを開発する前のプロトタイプ半導体の位置付けに甘んじていた。それはASICやSoCがFPGAに比べて、性能や消費電力の面で優れ、量産価格も安価であったためである。課題は微細化の世代毎に高騰する開発費であり、開発費用が数億円を超え始めると、FPGAを実製品に採り入れる動きが加速、クラウドコンピューティング、ネットワーク、産業用IoTなどで存在感が増している。
FPGAの市場は半導体の中でも依然年率10%強の成長を続けている。
FPGA市場を牽引するのは、ザイリンクスやインテル(アルテラを買収)であり、この市場にNECが参入。その武器は3つだ。NB-FPGAはSRAMベースのFPGAに比べて、消費電力は1/10、ソフトエラーを1/100に抑える性能を持つ。そしてNECが開発した高位合成ツールCyberをもち、FPGAでのプログラム実装環境をデザインキットとして提供できることだ。
●NB-FPGAの特長
半導体の微細化に於ける課題の一つがリーク電流による消費電力増加だ。消費電力は、回路が動作する時に消費するダイナミック電流とトランジスタを搭載することで発生するリーク電流からなる。SRAMベースのFPGAでは、このリーク電流をなくす術がないが、信号切り替えによる原子スイッチFPGAでは、このリーク電流をゼロにできる。
また、動作原理が原子スイッチであることは、情報を保持するためのメモリを必要としない。放射線の影響で回路構成情報が書き換わってしまうソフトエラーの発生確率が極めて小さく、2017年の発表では1/100に抑えられると発表している。
加えて、記憶に6つのトランジスタを必要とするSRAMベースのFPGAに比べて、回路面積も1/3になる。単純計算で製造コストは1/3となる。
●実証内容
ソフトエラーの評価回路を一定期間動作させ、正常な動作完了を知らせる信号が継続出力されることを確認する。ソフトエラーを宇宙空間で実証することは、大きな訴求点になる。
宇宙空間でNB-FPGAに書き込まれた画像圧縮回路で、衛星の太陽電池パネルの開閉前後の画像と衛星から地球を撮影した画像を圧縮し、地上へと送信。
また、地上からNB-FPGAの書き換えを確認する。書き換え後、NB-FPGAの抵抗状態を読み出すことで、期待値と比較する。
宇宙空間でのソフトウェアアップデートに加えて、ハードウェア(NB-FPGA)の書き換えが確認され、かつソフトエラー耐性が実証されれば、地上からの宇宙ステーション支援の幅を拡大するであろう。
実証は打上から、1年の間で行う。(記事:小池豊・記事一覧を見る)