宇宙ステーションで進化する細菌 人体への影響は小さい 米大学の研究
2019年1月10日 08:52
生物が進化する原因の1つと考えられる突然変異。遺伝子が突然変異することで、厳しい環境下に直面した種が時間をかけて適応するという。宇宙空間でも細菌が突然変異を起こしうるが、進化した細菌が地球上の生物に害を及ぼすか懸念されるだろう。米ノースウェスタン大学は8日、国際宇宙ステーション(ISS)で突然変異した細菌が人体に害を及ぼさないという研究報告がなされた。
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■薬物耐性をもつ細菌を調査
研究グループが調査したのが、黄色ブドウ球菌とセレウス菌の2種類だ。ヒトの皮膚や腸内に生息する黄色ブドウ球菌は、感染症を引き起こすだけでなく、薬物耐性を獲得する菌へと変異しうる。他方、土壌に生息するセレウス菌は、食中毒の原因となる。
薬物耐性をもつこれらの細菌が、ISS内のトイレで発見されたという。ISSに滞在する宇宙飛行士にとって、強力な薬物耐性をもつ細菌の影響が懸念される。とりわけ火星などへの長時間の航行の場合、宇宙船に隔離された細菌が人体に悪影響を及ぼすよう変異する可能性もある。
■宇宙船内でも細菌は進化を続ける
ISSには数千種類もの細菌が生息する。米国立生物工学情報センターは、ISSに隔離された多数の細菌を分析し、データベースを公開している。研究グループはこのデータベースを利用し、データを比較した。その結果、地球よりも厳しい環境下にもかかわらず、ISSが強力な薬物耐性をもつ菌へと変異させないことを発見した。
ISSに隔離された菌は地球上の菌と比べて遺伝子が大きく異なるものの、地球上の菌ほど有害ではないという。代わりに、ISSに隔離された菌は、厳しい環境下で生息するよう進化を遂げた。
「窓も開けない、外にも出られない、換気もできない小さな宇宙船の中で、宇宙飛行士は長時間滞在することになる。このような条件が細菌にどのような遺伝的な影響を及ぼすのかに関心がある」と、研究グループのメンバーのひとりであるノースウェスタン大学のエリカ・ハートマン氏は語る。
研究の詳細は、米Ecological and Evolutionary Science誌にて8日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)