地球と火星の「鉄コンクリーション」類似性から火星環境の謎を解明へ 名大など
2018年12月10日 22:05
名古屋大学などの研究グループは、地球と火星の「球状鉄コンクリーション」が類似する成因を持つ要因を明らかにし、そこから、火星環境が変遷した謎についても、解明につながったことを発表した。
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研究は、名古屋大学博物館の吉田栄一教授、高知大学理工学部の長谷川精講師、岐阜大学教育学部の勝田長貴准教授、名古屋大学環境学研究科の丸山一平教授・城野信一准教授・淺原良浩准教授・南雅代准教授・山口靖教授、名古屋市科学館の西本昌司主任学芸員らによるグループにより行われた。
コンクリーションとは、「天然のセメント」と言われる球形や卵形(不規則な形状もある)の岩石の1種である。このうち、米国ユタ州の砂漠の地層中に見られる表面が鉄で覆われた球状の「球状鉄コンクリーション(以下、鉄コンクリーション)」に関しては、その形状や組成が類似しているものが、実は火星でも発見されていた。今回、この地球と火星の「鉄コンクリーション」の成因についての研究から、太古の火星環境の謎についても解明につながったという研究結果が報告された。
2004年、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「オポチュニティ」によって、火星メリディアニ平原の地層中から、鉄を主成分とする大量の丸い粒が発見された。この丸い粒は色や形状から「ブルーベリー」と呼ばれているおり、これがユタ州にあるものと類似していたのだが、両者の成因については十数年来論争が続いていた。
研究グループは、ユタ州と同様の「鉄コンクリーション」をモンゴル・ゴビ砂漠の地層からも発見した。ユタ州とモンゴル両方の調査によって、これらの「鉄コンクリーション」は、もともと炭酸カルシウム(CaCO3)コンクリーションであり、酸性の地下水との化学反応(中和)によって「鉄コンクリーション」に置き換わったことを解明した。
このメカニズムは、火星に見られる地質学的な証拠から「ブルーベリー」の成因にも適用でき、「ブルーベリー」はもともと『炭酸塩岩』である可能性が高いことを明らかにしたのだ。
実は、太古(40億年前頃)の火星は、厚い二酸化炭素の大気が存在し温暖湿潤な環境だったのだが、その環境の場合、現在の火星表層には「炭酸塩岩」があるべきなのだが、なぜかほとんど見られないということがこれまで謎であった。
今回の研究による発見は、現在の火星表層に「炭酸塩岩」がほとんど見られないのは、酸性の水によって溶けてしまったから、ということを示すという。このことは、約37~32億年前の火星を、酸性流体が覆っていたことを示す証拠とも一致する。「ブルーベリー」は、この火星の環境的変化を示すものだったのである。炭酸塩岩が現在の火星でほとんど見られないことの地質証拠が発見されたのは、今回が初めてという。
2020年にNASAは新しい火星探査車「Mars2020」を火星に送り込む予定であり、火星のサンプルを地球に持ち帰るサンプルリターンを計画している。探査候補地として選定された「Jezero Crater」は、35億年前の酸性流体による影響が小さく、炭酸塩岩がわずかながら残されている可能性の高い場所である。
この成果は、米国科学雑誌「Science Advances誌(電子版)」に6日、掲載された。