産総研ら、SiC半導体の低抵抗を実現する構造を開発 EVの高効率化に期待
2018年12月5日 16:20
産業技術総合研究所(産総研)らは4日、炭化ケイ素(SiC)半導体を用いた1.2キロボルト耐電圧(耐圧)クラスの新たなトランジスタ構造を開発し、世界最小オン抵抗を達成したと発表した。研究には、SiC半導体の実用化範囲を広げる面々であるトヨタ、富士電機、住友電工、東芝、三菱電機が名を連ねる。
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電力エネルギーの有効利用の鍵は、パワー半導体での電力の変換効率だ。電気には交流と直流という2つの方式があり、発電所からの送電には交流が、家電などの動作には直流が使用されている。例えば、家庭の電源は交流で、新潟県糸魚川と静岡県富士川を境に、西側は60ヘルツ電源(1秒間に60回プラス極とマイナス極が入れ替わる)を、東側は50ヘルツ電源を使用する。他方、家電製品の多くは直流電源を必要とし、交流から直流へと電力を変換するACアダプターを使用している。
このように、交流や直流の電源を各機器が必要とする状態に変換するのがパワー半導体の役目だ。具体的には、交流を直流に変換する整流、交流の周波数を変える周波数変換、直流電圧の昇圧や降圧を行うレギュレータ、直流を交流に変換するインバーターがある。
SiCは、小型化や高効率化に有利なバンドギャップ物性を持つため、パワーデバイスとして有望だ。富士経済は3月、2030年のSiCパワー半導体市場を2,270億円と予測。2017年比8.3倍の成長だ。自動車・電装分野が牽引し、そこに自然エネルギーが加わる構図だ。
今回の発表は、トランジスタの断面構造を縦方向へとする「トレンチゲート型」に、さらなる改良を加えた、縦型スーパージャンクション(SJ)MOSFETを開発。高温特性や動特性を維持したまま、通電時の抵抗を大幅に低減した。
詳細は、米国サンフランシスコで開催される国際会議IEDM 2018(IEEE International Electron Devices Meeting)にて2018年12月3日(米国太平洋標準時間)に発表された。
●SiC SJ-MOSFETの特長
SJ-MOSFETは高出力で動作しても自己発熱によるオン抵抗の増加が少ないことが特長だ。
高温特性と動特性の検証は、1.2 キロボルト耐圧クラスのトレンチゲート型で実施。SJ構造の有無での比較とした。室温での差は0.7 mΩcm2(メートル・オーム・立方センチメートル)と小さいが、175度ではSJ構造無しの6 mΩcm2に対しSJ構造有りでは3.8 mΩcm2と37%削減。高出力動作でも自己発熱によるオン抵抗の増加が少ないことを確認。安全面でも負荷短絡耐量(事故などでの破壊時間)は、従来と同等の値を維持した。
この技術移転と高電圧での試験が進むことで、より電力エネルギー効率の良いEVや自然エネルギーの確保が可能になる。(記事:小池豊・記事一覧を見る)