森林の健康度を判定する新しい指標 森林管理や環境保全貢献へ 名大の研究

2018年11月30日 09:16

 名古屋大学の研究グループは、森林の健康度(窒素飽和状態)を渓流水に含まれる硝酸の酸素同位体の組成から容易に判定できることを実証し、精度の高い指標化方法を見出した。これまで、日本では降雨量が多いために欧米で行っている硝酸濃度の季節変化から判定する方法がとれなかったが、今回の方法によって得られる指標により森林の健康度を把握し、間伐をどのようにやれば森林の健康を保てるかといった森林管理や周辺環境の保全などへの貢献が期待されている。

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■窒素の流れで見る森林の健康度

 森林が健康であるということは、豪雨時や地震のときの崖崩れなど災害が起きにくくするということでもあり、良質な木材を産出するということにもつながる。たとえば、奈良の吉野杉は、通常よりも密植し、間伐を多く行うなど手間をかけて銘木に育てる方法を取っているが、そのためには森林を健康に保つきめ細かい管理が必要である。また、森林の健康を保てなければ渓流水や地下水が汚染され、周辺環境の悪化にもつながる。

 森林の健康度は窒素の流れから判定することができる。すなわち通常の森林は、大気や土壌などの環境から供給される窒素を吸収するため、森林の外に流出する硝酸の濃度は低いが、多量の窒素が森林に供給され続けると森林の窒素吸収能力が限界を超えることから、森林の外に流出する硝酸が増える。その程度(森林の窒素飽和の度合い)が高いほど森林の健康度は悪いと判定されるのである。

■森林の健康度の指標として大気硝酸の直接流出率を使用

 欧米の場合、森林の活動が活発で窒素の吸収能力が高い夏は渓流水中の硝酸濃度が低く、冬は高いという季節変化がはっきりしているため、渓流水中の硝酸濃度を測れば季節変化とのずれから森林の健康度を判定することができる。しかし、日本では降水量が多く、季節変化がはっきりしないため同じ方法で森林の健康度を判定することができなかった。

 渓流水や地下水などに含まれる硝酸には、大気由来の窒素からできる硝酸(大気硝酸)と微生物などの働きによって有機物などが酸化されてできる硝酸(再生硝酸)がある。日本では硝酸全体の計測から森林の健康度を見ることが難しいことから、研究グループは大気硝酸のみに目をつけ、大気から森林に供給された硝酸に対する渓流水中に含まれる大気硝酸の割合(直接流出率)を計算した。それは、大気硝酸の酸素同位体の組成が再生硝酸と混合したときにだけ変化することを利用したもので、大気硝酸と再生硝酸の混合比や直接流出率を高精度で求めることができた。

 そして、これまでにわかっている海外での硝酸による森林の健康度データとの照合や国内の森林での2年以上にわたる検証の結果、この直接流出率が、窒素飽和の指標すなわち森林の健康度の指標として有用であることが証明されたのである。

■適正な森林管理と環境保全に貢献

 今後は、今回示された直接流出率による指標によって森林の健康度がわかり、森林の適正な管理計画を立てることができるようになるほか、森林から流出する渓流水や地下水の水質保全にも貢献するだろう。

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