サリドマイドの光学異性体の謎を完全解明 名古屋工業大学の研究

2018年11月24日 14:47

 サリドマイドパラドックスという言葉がある。薬害事件で有名だが今も現役の薬剤として使い続けられているという複雑な歴史を持つサリドマイドという薬剤の、副作用を引き起こす光学異性体の存在に関する謎について記述するための概念だ。名古屋工業大学の柴田哲男教授らは、このサリドマイドパラドックスの謎に完全な説明を与えることに成功した、と発表した。

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 サリドマイドは非バルビツール酸系の化合物であり、睡眠薬としての利用をはじめとする様々な治療効果と、妊婦が服用した場合の胎児への恐るべき催奇形性がある。1957年に西ドイツ、1958年には日本でも発売され、恐ろしい薬害事件を引き起こし、数年後に販売が停止された。

 しかし、その医薬品としての価値は今も衰えておらず、1998年アメリカで、日本でも2008年にサレドカプセルの名で、再度医薬品としての使用が始まった。このあたりの仔細については容易に本にまとめられる内容となるため、詳述は他に譲るとしよう。

 さて、大きな社会的注目を浴びたということもあり、その後サリドマイドを多くの人が研究した。中でも重要であったのはミュンスター大学のBlaschke教授による1979年の報告である。簡単に説明すると、サリドマイドには右手型と左手型の光学異性体があり、左手型だけが催奇形性を持つのだ、という発見である。

 ならば右手型だけを合成すれば安全なサリドマイド薬が作れるのではないかというのは当然の論理的帰結であり、実際に不斉合成という手段を用いてそれが作られた。

 だが今日売られているサリドマイド薬がそういうタイプのサリドマイド薬なのかというとこれがそうではない。実は、右手型のサリドマイド薬を投与すると、体内でまた左手型が発生してしまうということが明らかになったからである。

 となると、Blaschke教授が発見したはずの安全な右手型(治療データはもちろん提示されていた)とは何だったのか、という問題になる。これがサリドマイドパラドックスである。

 最終的な結論は簡単にまとめるが、実は右手型を投与すると体内で左手型は確かに発生するが、これはほとんど吸収されることなく体外に排出されるのだ、というのが柴田教授の結論だ。

 研究の詳細については、Scientific Reportsをご参照いただきたい。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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