東芝、教師なしのAI技術で品質革命 フラッシュメモリの生産性を高めるか
2018年11月16日 17:52
東芝は15日、生産品の品質確認において、多量のデータの中から少量の不良品データを教師なしで高精度に分類する深層学習「深層クラスタリング技術」を開発したと発表した。
【こちらも】東芝メモリ、演算エネルギー効率を4倍改善するAIプロセッサ開発 FPGAで確認
人類は、先人達の知識や経験を伝承し、文明を築いてきた。その知識の伝承や習得手段は、古代の口承、文字の発明、製本の発明、学校教育、コンピュータ上への記録、そして、インタネット上での情報検索へと進化。現代は、時間と空間を超えて、知識を習得することが可能な時代だ。
ところが、人工知能(AI)で最も実用化が進んでいる深層学習(ディープラーニング)は、推論を司る人間の脳を模したニューラルネットワーク内に知識を蓄えるが、その学習方法に必ずしも教師を必要としない。
将棋の佐藤天彦名人に勝利したAIは、将棋の駒の動かし方のみを設定しただけという。一手前の駒を動かした局面を行動としてフィードバックし、行動(次の一手)の価値をより高める「強化学習」を実施。名人でも気づかない妙手を発見するが、それは今までの将棋の常識をも覆す奇手もあるようだ。
今回の発表は、生産品の品質確認における深層学習の適用であり、良品・不良品を自動で分別する。分類精度は98.4%、教師なし学習において世界トップレベルの精度という。詳細は、北京で開催する国際会議ACML2018(Asian Conference on Machine Learning)の最終日16日に発表する。
●深層学習を用いた生産現場での品質確認の特長
良品・不良品の分類は最も厄介な工程だ。分類時間の短縮が工場の生産性を改善する一方で、良品を不良品とすれば歩留りが低下し原価率が下がり、不良品を良品とすれば不良品回収に莫大な費用が発生し、企業の品質への信用が揺らぐ。
一般的に、良品・不良品の自動分類では、何が良品で何が不良品かという人間の判断を人手で付与する教示作業(教師あり学習)が必要であるという。この作業に時間がかかるため深層学習の導入が難しかった。他方、深層学習の教師なし学習では、クラスタリング技術があるが、これを高い歩留りを持つ製品の品質確認に適用すると、良品を不良品としてしまうという。
この課題を「深層クラスタリング技術」で解決。従来のクラスタの中心にデータ群が集まる学習基準に加えて、クラスタ内の類似性を学習基準に追加した。本技術を、世界共通の手書き数字の公開データに適用。教師なし学習での分類精度が従来の93.8%から98.4%と世界トップレベルの分類精度に向上した。
●深層学習による品質確認(東芝、深層クラスタリング技術)のテクノロジー
東芝のフラッシュメモリの生産は、「BiCS FLASH」という積層構造の確立、そして、キヤノンと露光装置に代わるナノインプリントの実用化で高い歩留りを実現しサムソンに対抗してきた。
今回は半導体工場の品質確認工程に、深層クラスタリング技術を投入する。フラッシュメモリの大量生産現場において、高い歩留りに加えて、品質確認の生産性が上がれば、サムスンへの対抗手段はより強固なものになる。
現時点では、世界最高水準の手書き文字認識を完成したに過ぎない。一日も早く半導体工場やその他の製造現場への適用を拡大し、日本の生産技術をさらに高めてほしい。(記事:小池豊・記事一覧を見る)