空に浮かぶ大きなコウモリ型の影 その謎に迫る ハッブル宇宙望遠鏡
2018年11月6日 21:29
地上でも日差しによって影が生じることは、よく知られる現象だ。ところが、宇宙にも同様の影が存在する。1,300光年離れたへび座には、「コウモリの影」と呼ばれる天体が存在する。新しく誕生した恒星の周辺に位置する原始惑星系円盤が巨大な影を生み出すのだが、ハッブル宇宙望遠鏡により、この影が全長で太陽系の200倍もの大きさをもつことが判明した。
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■偶然の組み合わせで生じた「コウモリの影」
太陽に似た恒星であるHBC 672は、「原始惑星系円盤」と呼ばれる塵や岩、氷などから形成される円盤によって周囲が取り囲まれる。この円盤は地球から非常に離れた場所にあり、非常に小さいため、ハッブル宇宙望遠鏡によってしか観測できない天体だ。ところが、小さなハエに投光すると壁に影が大きく反映するように、HBC 672の円盤もまた分子雲の上に影が大きく反映される。
このような影が存在することは、原始惑星系円盤がほぼ真横を向いていることを意味するという。影を発生させる原始惑星系円盤は、新しく誕生した恒星の周辺に存在するありふれた天体であり、太陽系が誕生して100億年から200億年経った時点でも、同様の原始惑星系円盤が存在したと考えられる。しかしコウモリの影は、星雲と横向きに見える円盤とが偶然組み合わさって生じた、非常に珍しい現象だ。
研究者らは原始惑星系円盤の形状を理解しようと、コウモリの影に着目した。影のほとんどの部分が完全に不透明であるが、周辺部では光の一部が通り過ぎるため、色に違いが生じるという。そこではいくつかの光が通り過ぎる。原始惑星系円盤内に位置する塵の大きさや組成を決定するために、研究者らはコウモリの影の形状や色を使用した。
■赤外線の観測で明らかになる「コウモリの影」
ハッブル宇宙望遠鏡は肉眼では見えない赤外線を観測でき、星雲周辺に映し出された影を容易に検知できる。これにより、小さく塵から組成される円盤と非常に大きな星雲との両方によって、大きなコウモリが生じたと判明した。
コウモリの影は、米航空宇宙局(NASA)がハッブル宇宙望遠鏡の後継機として開発を進めている、赤外線を観測できるジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡によって精査されることが期待される。
「ジェームス・ウェッブ宇宙望遠鏡は円盤の塵やガスを調査する能力を有し、惑星を形成する環境を生み出す物質を理解しうる」と、米宇宙望遠鏡科学研究所のアレクサンドラ・ロックウッド氏は語っている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)