胎児期の環境要因は何故成人後の生活習慣病を招くのか、東大の研究
2018年11月5日 16:30
胎児期に栄養状態などにおいて悪い環境に置かれると、成人後に生活習慣病になるリスクが上がる。疫学調査によって経験的には古くから知られているこの事実がいかなる機序によって起こるかを、東京大学の研究グループが突き止めた。
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妊娠母体が低栄養状態に晒されると、そのストレスによって出生体重は小さくなる。その影響は乳児期だけでなく、何十年にも渡って悪影響を残存させ、成人後にも高血圧など様々な生活習慣病をもたらすのである。
ちなみに、この事実が注目されるようになったのは、第二次世界大戦がきっかけであった。第二次世界大戦中は諸国において避けようもなく飢餓状態での出産が多発したわけであるが、その後に生活習慣病の増加が起こったため、両者の因果関係が着目されるようになったのである。ただその後長い年月を経ても、その詳しい機序は不明であった。
結論から言えば、本研究において、妊娠中に加わる栄養不足などが原因のストレスは、胎児の脳に記憶され、成長後において「食塩感受性高血圧」の発症原因になっていることが分かったという。
生活習慣の歪みによる食塩感受性高血圧の発症過程にエピゲノム異常が関与していることから、エピジェネティック修飾薬が新たな高血圧治療薬になる可能性が本研究から示唆される。
ちなみに、日本では「小さく生んで大きく育てる」ことをよしとする一般的風潮が今も残っているが、この研究はそれに対しても医学的見地から警鐘を鳴らした形だ。
なお、研究の詳細は、Aberrant DNA methylation of hypothalamic angiotensin receptor in prenatal programmed hypertensionと題せられ、「JCI-Insight」オンライン版に掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)