「厳選採用」とは反対のやり方

2018年10月29日 19:21

 世の中全体の人手不足で、採用活動をしている会社は多いですが、最近よく聞くのは採用したけれども「仕事ができない」「能力が足りない」など、「思ったような人材ではなかった」というミスマッチの話です。
 戦力にならないだけでなく、いることがマイナスになるなどということもあり、そうなるとしっかり法律を踏まえた上になりますが、辞めてもらう話し合いが必要になる場合もあります。それなりの手間ひまがかかりますし、お互いにとって不幸なことなので、そんな事態は少ないに越したことはありません。

 こういったことを避けるには、一般的にいう「厳選採用」をするしかなく、求める基準を高く設定して慎重に選考を進めることになります。当然ですが、採用できる人数は少なくなり、社内の人材要望を充足することはできません。
 経営者や採用担当者は、この矛盾に悩みながら、ぎりぎりの妥協点を導き出そうとするわけですが、私の今までの経験では、気になったことを善意に解釈しても、だいたいは懸念していたことが当たってしまうので、「たぶん大丈夫だろう」のような皮算用は禁物です。ただ、そんなことを言っていては、人が全く採れなくなってしまうので、本当に悩ましいところです。

 このすべての問題が解決できている訳ではないですが、こんな会社があるという紹介記事を目にしました。応募者に対して、会社から「不採用」とは絶対に言わず、「その人に合わせた仕事を作る」というのです。

 エントリーの敷居は極限まで下げ、履歴書も不要で面接のような形をとらず、ただ気軽に仕事について一緒に話し合いましょうということをしています。
 「どうやって入社してもらうか」ではなく、「どうしたら就職希望者に選ばれる会社になれるか」を考えて、一緒に飲みに行ったりゲームをしたりということもあったそうです。

 そうしたことを続けていてたどり着いたのが、「不採用はない」ということで、「すべての応募者には必ず良いところがあるから、何かその人に合う仕事があるはずだ」という前提に立った話になっているそうです。
 ただ、現実はそう簡単ではなく、その人に合った仕事を作り出せないことが当然ありますが、そこでは「将来やってほしい仕事ができたら、こちらから声をかけさせてほしい」として、決して不採用とは言わないそうです。

 これらの取り組みで、社員からは「良い会社」と評価されて、友人紹介など新たな採用に結び付くことも増えたそうですが、その一方で離職率は決して低くなく、新陳代謝が続いている状態とのことです。社員の同質性を求めていないことや、社内の環境変化の度合いが大きく、そこでミスマッチが発生する時があること、そのことに対する無理な引き留めはしないことなどが要因とのことです。

 この話は一例ですが、最近はこのように今までの常識にとらわれない、様々な採用手法をとる会社が増えています。インターンの仕組みでお互いの相性を見極める期間を設けたり、応募書類は一切不要にしてその人の人柄だけで選考したり、紹介やスカウトに会社をあげて取り組んだり、本当にいろいろです。

 これら最近の動きに共通するのは、採用基準を厳しくする「厳選採用」とは反対に位置する動きということです。そして、ただ採用基準を下げる、選考を甘くするという動きとも違っています。

 これからもいろいろな会社でいろいろな方法が考えられて、実践されていくのだと思いますし、その正解は永遠に出ないだろうとも思います。
 ただ、今までの既成概念にとらわれない姿勢と発想が必要なことだけは確かなようです。

 ※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

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