ドラマ『下町ロケット』に出てくる「ファブレス経営」(1) 「技術力」だけでなく「管理力」が必要

2018年10月27日 21:04

■ドラマの「ギアゴースト」はファブレスメーカー

 ドラマ『下町ロケット』に出てくる「ギアゴースト」なるギアボックスの企画設計の企業は、生産手段を自社で持たない「資産のない会社」、つまりファブレス経営との設定になっている。そのため、ドラマの筋立てでは「コンペ」形式で製造を発注する形態をとっていた。

 この設定は論理的には成り立つように見えるが、実際は「製造技術」を知らない原作者・脚本家・監督などが、想定したものであろう。テスラのイーロンマスク氏と同じ知識不足と言える。確かに、仕様書を示して要求仕様を叶える設計・製造コンペで、優秀なものを選べば製造資産を持たなくとも、成り立つように感じるかもしれない。しかし、現実はそれほど単純ではない。商品特性によるところも大きい。自動車は「知識集約産業」と言われるだけに、小型家電のようにはいかない。

 私が、ドラマとよく似た場面を経験してきたところによると、ファブレス経営を貫くには膨大な背景を必要とする。

 まず、ドラマの中に出てきた部品点数を減らして技術的に優位に立つことを考えてみよう。ファブレス経営を考えるとき、発注者となる企業はかなりの技術レベルを持っていなければならない。その技術は、どの範囲の技術であるのかだ。

■ドラマ登場人物のような技術力のある熟練工とは?

 私が実際に請け負った油圧バルブ本体の部品点数を減らす試みでは、まず大型のマシニングセンタを必要とした。その当時、私の会社でNC(コンピュータ制御)マシニングセンタ(工作機械)を設備して仕事を探していた時、油圧メーカーが目を付けて、大型の油圧バルブ本体の切削を依頼してきた。これに成功すると、ボディー本体は2分割を免れ、2分割をした場合、発生するシーリング、ボルト締めなどに要する加工を省くことが出来、何よりもその組付け各工程に発生する中間在庫がなくなり、場所、取り扱い設備、運搬手段、在庫管理など、諸々を省くことが出来る。資金量としてはかなりの効率アップとなるものだった。

 そこで、特注品に近い生産量しかないこの製品を、高額なNCマシニングセンタで造るメリットも計算して、製造技術開発の価値はあると考えた。問題は、長大な穴あけ工程をどの様にして可能にするかであったが、真っすぐに開けることが難しく、深くなると曲がっていってしまうのだった。その原因は「キリコ」で、つまり切削して出てくる切りくずが悪さをするのだ。単純作業に思えるが、中心をずらさずに開けるには、刃物(ドリル)の材質と形状、ドリルの研磨、切削油の材質、量など多岐にわたって配慮がいる。

 ロングドリルはたわんでしまう余地が大きい。そこで、下穴を2段階に分けるなどの必要が出てきた。切削量を減らしたいのだが、これはコストとの兼ね合いで、できる限り工程数・工数は減らしたいのだ。次に、コンピュータ制御なので、ドリルの刃先の回転数や送り量が問題となる。「インチング」という方法でキリコを切る方法も講じながら、進めていた。しかし、刃先に十分な切削油が回らず、熱による刃先の摩耗が激しかった。刃先に穴のあるドリルもあり、油は届いていると思っていたのだが、排出が出来ていなかったのだ。

 すると、ベテランの機械工がドリルの刃先を研磨しなおし始めていた。標準的には中心を正確にとがらせるのが基本だが、そのベテランは、最先端を少しずらして研いでいたのだ。つまり、ドリルは少し偏芯して、ぶれて回転するのだ。するとドリル径よりも少し大きく穴が出来ることになる。そこに隙間が生まれて、切削油が良く通り、細かいキリコが詰まるのを防ぐのだった。どの程度の偏芯が良いのかは、熟練工の「勘」に頼るしかなかった。すると熟練工は、材料の材質が均一でないと言い出した。つまり材料個体によって材質がばらついており、ドリルの偏芯具合を個体ごとに調整しないとうまくいかなかったのだ。

 次は、ファブレス経営は借金が出来ない体質を考えよう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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