内部通報制度、上場企業の多くが採用も利用無く形骸化進む 自浄作用薄く
2018年10月15日 09:17
デトロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリーが上場企業3653社を対象に行った調査によれば、内部通報制度や不正防止ポリシーを策定している企業は9割に上った一方で、その制度が形骸化している様子が明らかになった。調査に回答した303社のうち半数以上で内部通報の平均利用件数が年間0件から5件であった。これは不正が行われなかったからではなく、過去3年間で横領や情報漏洩、データ偽装などの不正事例があった回答した企業は46.5%に達している。
内部通報制度は公益通報者保護法に基づき、2016年12月に消費者庁消費者制度課から公表された内部通報ガイドラインに沿って各企業が取り組んでいるものだ。すでに長期にわたって内部通報窓口を設置してきた企業、最近導入を始めた企業などさまざまだが、不正防止に対する効果や企業の自浄作用の促進などが期待されてきた。社員が企業内の違法行為・不祥事を行政機関やマスコミに情報提供する内部告発とは異なり、社員が企業内の窓口に通報する内部通報の方が企業の受けるダメージが少なく、はるかに対処しやすい。かつては内部通報が少ない方が健全と考えられてきたが、現在ではむしろある程度通報があった方が自浄作用が働いている証拠と見なされるようになってきた。
内部通報制度では通報者を保護するルールも設けられている。通報者が労働者であること、さらに通報内容が公益通報、特定の法律に違反する行為であった場合には保護の対象となることが定められているのだ。企業が食品衛生法、個人情報保護法、廃棄物処理法などに違反している場合には通報者が保護されることになっている。労働者も安心して内部通報制度を利用できるのだ。
ところが実際には多くの企業内で不正行為があることが明らかになりながらも内部通報制度はほとんど利用されていない。制度自体の形骸化や、企業の自浄作用の低下が懸念される事態だ。今後は各企業が自社の企業イメージを守るためにも、社員に対して内部通報制度の存在を周知し、適正な運用を心がけるべきだろう。(編集担当:久保田雄城)