「集中」することのリスクとメリット

2018年10月11日 18:09

 最近の報道で、世界的に赤色の染料が不足しており、その理由は「原料をほとんど中国で作っている」という生産の中国への過度な一極集中にあり、その中国での環境規制強化によって、2018年春から現地の染料原料メーカーが相次ぎ操業停止となっているためとのことで、サプライチェーンの構造的欠陥が出たという記事がありました。

 最近、こんな「集中」することのリスクが顕在化する事例が多いように思います。

 先日の北海道の地震による全域停電、いわゆるブラックアウトは、効率化とコストダウンを求めて一部発電所に稼働を集中させていて、その施設にトラブルが起こって停止したことが引き金になりました。
 そういえば、私のある友人の家は、オール電化の高層マンションで、もし停電になったら本当に何もできなくなると言っていました。建物のエレベーターは動かず、給水ポンプが止まるので水も出ず、そもそもガス栓の設備もないので、代替手段が一切ないとのことでした。

 一方、ITシステムの最近の傾向はクラウド活用ですが、基本的には大規模なデータセンターでの集中管理です。かつてはオープン化、ダウンサイジング、分散処理がもてはやされた時期がありましたが、機器や設備が分散することで、トラブル発生時の原因特定に時間がかかることなどから、また集中管理の流れに戻ってきました。大規模設備に集中投資して冗長化などの対策をした方が、安定稼働の上でもコストダウンの上でもメリットがあるということのようです。
 その人の性格や仕事ぶりに対して、「集中力がある」「集中している」という評価は、悪い意味で言われることはまずありません。
 「集中」のメリット、良い意味での「集中」は数多くあります。

 かつて、「選択と集中」というフレーズで、その企業が得意とする特定分野に特化する戦略が、当然のように言われた時期があります。しかし、結局当たり外れが大きくなることから、最近はあまり聞かなくなくなりました。
 企業戦略は、「集中」だけでも、反対に「分散化」や「総合化」だけでもダメで、その時その時の状況を勘案して、適切な取り組み方を決めていかなければなりません。

 「集中」することのメリットは、効率やコスト面が最も大きいですが、何かトラブルが起こった時やうまくいかなかった時に、次善の策が持てないというリスクがあります。
 リスク回避の想定をしっかり持てていれば、「集中」することは大いにメリットがありますが、最近起こっている様々な問題を見ていると、効率重視とコスト重視に行きすぎて、リスクを低く見積もっていたために、トラブルや急な状況変化に対応できなかったケースが多いようです。

 「正常性バイアス」という心理学用語があり、これは自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人間の特性のことで、先日の水害の際の逃げ遅れの原因として取り上げられていました。リスクの軽視は、この話と何か共通点を感じます。

 私個人は、あまり一極集中せず、多様な選択肢を持っている方が、いざという時のリスク回避につながると思っているので、何でも一つのことに集約するのが、あまり好きではありません。「これさえあれば」や「これでなくては」という一つだけのものへのこだわりはほぼありません。

 「集中」することについては、そのリスクとメリットをよく考えて、あまり偏り過ぎないことが大事ではないかと思います。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

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