どの会社でもあり得る人事考課による不正への誘導

2018年10月9日 17:45

 スルガ銀行が自らの不正融資問題によって、金融庁から一部業務の停止命令が出されましたが、同行を調査した第三者委員会から、利益偏重の人事評価制度が原因の一つであったという指摘がされたとの報道を目にしました。

【こちらも】人事評価は「見えている部分だけ」に偏りやすい

 調査報告書によれば、営業担当者の人事評価は、法令順守や顧客満足度を含む項目があったものの、営業目標の数字達成が最大で7割を占める偏った制度になっており、数値目標さえ達成すれば、評価ポイントはかなり高くなるため、その分、法令順守や顧客満足度といった項目の割合は低くなっていたとのことです。

 さらに、この評価制度の最大の欠陥として、融資の返済が延滞や回収不能になっても、営業担当者の人事評価に影響しなかったことが指摘されており、融資が焦げ付いても評価が変わらないので、返済の可否を厳しく見ず、とにかく融資を1件でも多く実行しようという意識が、営業担当者に働いたと指摘しています。

 また、営業部門のボーナスの平均支給率は「総じて高め」となっており、営業担当役員は、営業部門の業績貢献度の高さを理由に、配分を大きくするよう毎回強く要請していたとのことです。

 第三者委員会の報告書では、「半年間というごく短期の営業成績が、人事考課全体の最大7割を占めるというのはさすがに行き過ぎなように思われる」と指摘していました。

 私はこの話を聞いて、コンプライアンス意識が低い一部の企業で行われた特別のこととは思えませんでした。評価制度の中で行われたことの一つ一つは、私が今までの経験の中で、実際に目にしてきたことばかりだからです。

 例えば、短期の営業成績偏重は、今から20年ほど前の、「旧成果主義」といわれるプロセスを見ない短期結果主義と同じで、その当時は成果主義をうたっていた会社のほぼすべてで行われていたことです。
 評価項目自体が内向きの論理で構成され、法令や顧客満足など社外からの見られ方をはじめとしたコンプライアンス意識が薄れるのは、短期業績主義に陥っている会社の特徴です。

 また、営業へのボーナス支給配分を増やす要請が常にあったとのことですが、部門トップが自部門への利益誘導を強く主張するというのは、別に特別のことではありません。
 特に営業関連の部門や業績がいい部門のトップが、自部門への利益誘導を要請してくるのは、どの会社でもあることです。ただし、その要請を聞くかどうかは別の話です。

 さらに、何を評価されるかで、社員たちの動き方が変わるのは当然のことです。評価項目は、会社にとって貢献度が高いと見る事項を示すことや、貢献度が高まる行動や態度、ほか業務上で好ましいことを示すという役目があります。
 例えば、短期業績ばかり追いかけさせたことで、部下育成や定常的な業務をないがしろにするケースが多発した反省から、部下育成に関する評価項目を追加した会社がありました。
 これに関しては、本来は望ましいとみられる行動に関連する要素が、評価項目に全く含まれていないなど、評価制度を活かしていないという、逆の意味で課題がある会社も多いです。

 もしかすると、スルガ銀行の話は、自分たちにはあまり関係がないこととして見ていたかもしれませんが、このようにどの会社でもごく普通に起こり得るのは間違いがない事実です。
 ただ、人の行動に影響を与える要素は人事考課だけではなく、会社を取り巻く環境、経営者の姿勢や上司の態度、その他多くのことが関わってくるので、仮に評価制度が偏っていても、他の要素で補正されていることは多々あります。
 裏を返せば、そのバランスが少しだけ崩れれば、同じような問題がどの会社でも起こる可能性があるということです。

 たかが人事考課と思うかもしれませんが、使い方によって、その会社の社員が仕事をする上での重要ポイントを周知し、その重要ポイントにつながる行動に向けて、社員を誘導することができます。
 この銀行のケースは、確かに想定している行動への誘導を意識していますが、そこに行きすぎがあったことがわかります。

 良くも悪くも、人事考課が社員の行動を変えるということは、十分に認識しておかなければなりません。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

関連記事

最新記事