すばる望遠鏡が明らかにする暗黒物質の謎 宇宙モデルの精緻化に貢献か 東大と国立天文台

2018年9月27日 21:51

 国立天文台は26日、すばる望遠鏡に搭載された「HSC(Hyper Suprime-Cam)」と呼ばれるカメラにより、暗黒物質(ダークマター)の空間分布を示す地図を作成。その解析を東京大学らの研究グループとともに行なったことを発表した。これにより、宇宙最大の謎である暗黒エネルギー(ダークエネルギー)の知見も得られ、精緻な宇宙論を構築できるとしている。

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■暗黒物質や暗黒エネルギーの謎
 暗黒物質や暗黒エネルギーは、宇宙を理解する上で物理学者にとって謎として立ちはだかった。スイスの天文学者フリッツ・ツビッキーは1933年、恒星や惑星から成る「かみのけ座銀河団」の質量を推定するためにその速度を計測しようとした。その結果、銀河団が存続するには説明できない質量をもつ物体に気づいたという。その物質を仮定しなければ、銀河団はばらばらに飛び散ってしまう。ツビッキーは重力をもつが光を発さない物質を暗黒物質と名づけた。

 暗黒エネルギーが登場する由来は、アインシュタインによる重力場方程式が出発点だ。当初アインシュタインは宇宙の大きさが不変であると想定し、宇宙定数を導入した。ところがハッブルらの観測により宇宙が膨張していることが判明し、宇宙定数のアイディアを撤回した。

 宇宙定数のアイディアが再燃するのは、宇宙の膨張速度とかかわりがある。1990年代後半から、現在の宇宙が加速膨張する形跡をとらえ、これを引き起こすエネルギー源の存在を示唆する。ダークエネルギーの想定は宇宙定数の概念を一般化させたもので、これにより宇宙の加速膨張を説明できるという。

■暗黒物質や暗黒エネルギーの謎を解く重力レンズ
 暗黒物質は光で直接観測できないが、宇宙の重力は遠方銀河から発せられた光の経路を曲げる「重力レンズ」と呼ばれる現象を引き起こす。遠方銀河から約90億年もの年月をかけてすばる望遠鏡に届いた光は、宇宙の構造がどのように形成されたかを示唆する存在である。そのため、重力レンズ効果を観測することで、暗黒エネルギーの謎に迫れるという。

 研究グループはすばる望遠鏡に搭載されたHSCを活用し、宇宙の観測を2014年春から継続。何百万もの銀河の形状を測定することにより、ダークマターの3次元分布を復元し、解析によりその分布が長い年月でどのように形成されたかを調査した。

 人工衛星プランクにより観測された幼少期の宇宙と比較した結果、HSCの測定結果はプランクが支持する宇宙モデルと矛盾がなかったという。この宇宙モデルは、アインシュタインが想定した宇宙定数を含む最も単純な模型だ。ただし今回のHSCの結果は、全計画の約10パーセントのデータを用いたものである。今後標準的な宇宙モデルの理解が深まり、ダークエネルギーの正体を解明できる可能性が十分にあるとしている。

 研究の成果は、26日にプレプリントサーバーarXivに公開され、今後日本天文学会欧文研究報告に投稿されたのち、専門家の厳正な査読が行なわれるという。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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