「食の王国・北海道」に不可欠な電力と鉄道に迫る危機 (後編)
2018年9月26日 21:43
JR北海道も厳しい。JR北海道は地震発生の直後から全面的な運休となった。直接的には、北海道電力が電力を供給できなくなったためであるが、停電が解消された現在でも全面復旧とは言い難い状況が続いている。
【前編は】「食の王国・北海道」に不可欠な電力と鉄道に迫る危機 (前編)
6日に発生した地震では、道内の50カ所以上で線路の歪み等が見つかった。何より深刻なのは、過去の被災からの復旧が出来ずに、復旧の見込みも立たない路線が累積しつつあることだ。15年の強風と高波により日高線の一部区間、16年の台風被害により根室線の一部区間では、バスによる代替輸送が続き復旧の見通しはない。それどころか、日高線についてはJR北海道は路線の廃止と、バスへの転換を提案している。被災により運休、路線廃止へと進み、実質的な廃線が進んでいる。
何しろ北海道は広く、人口は密度低く分散しており、おまけに雪が積もる。JR北海道は18年3月期決算で、連結営業損益で過去最大となる416億円の赤字を計上している。民営化した時の基金の運用益を含めても最終損益は87億円の赤字であり、通算2期連続で赤字となった。19年3月期でも最終損益は140億円の赤字が見込まれており、損益が好転する要因は見当たらない。それどころか、今回の地震による被災の影響で多額の復旧費用が嵩み、売り上げの低下が重なって、赤字幅の拡大も懸念される状況だ。何しろ鉄道事業で採算が見込まれるのは、札幌圏の人口集中地域のみであるという地域の特性を抱えている。
JR北海道が抱える苦境に対して、国土交通省は7月に19年度と20年度に経営支援策として合計で約400億円の投入する計画を公表しているが、間の悪いことに地震はその後に発生した。復旧工事の真っ最中であり、工事費用がまとまるのはしばらく先のことになるが、明確なことは19年3月期に見込まれた最終損益が140億円の赤字ではおさまらないということである。
6日の地震では、新千歳空港が停電に加えて天井の落下、水漏れなども重なり一時閉鎖の憂き目に遭い、6日だけで航空機200便余りが欠航した。ブラックアウトとJR北海道の運休、新千歳空港の閉鎖という悪条件の3連発は、北海道に対するイメージを大きく損なった。
北海道庁は1998年に「試される大地」というキャッチコピーを作成し、PRに活用した時期がある。だが、北海道という名称を付けられて栄えある150年目を迎えた今年が、復興への道を歩み始める「試される」初年度になるとはなんという皮肉であろうか。
広大な北海道は、その広さゆえのメリットを長年享受してきた。今回図らずも噴出した問題は、物理的な広さがもたらす負の一面だ。効率的な投資を難しくし、復旧作業を困難にする地平の広がりが再びプラスイメージで捉えられる日を迎えるためには、北海道と同じようなスケールのある柔軟な発想が必要になるだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)