スルガ銀行第三者委員会報告書を読み解く (中) 職員の不正は銀行もお客も苦しめ続ける

2018年9月14日 20:02

 融資は銀行が率先してお客に誘導するものではない。お客が必要に迫られたり、夢のある事業プランを描いて、不足する分を資金繰りとして銀行に融資を求めるものである。時には事業プランを提案することもあるが、個別性の高いオーダーメイドのようなもので、提案する責任を自覚していれば、プラン作成までに非常に手間がかかることでもあり誰にでも提案できるものではない。

【前回は】スルガ銀行第三者委員会報告書を読み解く (上) スルガ銀行は日本有数のブラック企業だった

 そもそも、銀行に言われた通りに借入すれば利益が出せるスキームがあるとすれば、わざわざお客に提案する必要はない。うまい話があれば自分なり関係者でこっそりと儲けている筈だ。昔から伝えられる警句に「うまい話には裏がある」というのがある。“うまい話”は勧められる人に良い話であることはめったにない。勧める人に色々な都合があるということだ。

 融資に関して定められた銀行の内規は、預金者の財産である預金を適切に運用して極力ロスの発生を防止するために、過去の経験や事例を参考にして長年の歴史の中で形成されたものである。

 自己資金が10~20%必要ということは、事業が一時的に不調になっても多少の期間は持ちこたえられるだろうという保険のようなものだし、今までの計画的な生活の中で積み上げて来た足跡を垣間見せてくれる安心感だった。自己資金が架空であれば、僅かな見込み違いが直ちに事業の継続を困難にする可能性がある。

 担保評価を控えめにすることは、いよいよ事業が行き詰り担保物件の処分によって債務を清算するという土壇場に、担保物件を処分することで、銀行にとってはロスが発生するリスクを回避し、債務者にとっては自己破産まで追い詰められずに済ませられる条件だ。担保評価が甘々だとロスと自己破産が続発して社会不安を引き起こすことにもなりかねない。

 今になっては既に死語のような気がするが、銀行には「貸さない親切」という戒めがあった。力量のない人に、返済能力を超えた融資をすることが、後々その人を苦しめることになるから“お断り”することを恐れないようにという意味である。金融人の矜持の筈だ。

 スルガ銀行で行われていた、通帳残高の改ざんや物件価格の水増しは債務者にとってとんでもないことはもちろんだが、銀行にとってもあり得ないことである。スルガ銀行では9月末の中間決算へ向けて、財務内容の実態を開示するための自己査定が進められているようだ。例えば1億円の貸出債権に、本当に1億円の価値があるかどうかを査定するのだ。担保評価が甘ければ債務者が破綻した場合のロスを厚く見なければならない。事業計画で見込んでいる家賃が割高であれば現実的な金額で引き直して、返済原資が出て来るのかどうか再確認する必要がある。

 その結果、貸倒引当金の積み増しが増加し、財務内容が悪化することは間違いない。プラスになるか、マイナスになるかが問題なのではない。マイナスがどの程度膨らむのかに関心が集まっている。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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