亜鉛欠乏症は何故様々な症状を引き起こすのか 京都大などの研究
2018年9月9日 17:41
京都大学の神戸大朋生命科学研究科准教授、武田貴成同博士課程学生、東北大学の駒井三千夫教授、山梨大学の川村龍吉教授らの研究グループは、亜鉛が細胞外のアデノシン三リン酸(ATP)の分解に関わることに着目し、亜鉛不足が、ATPの蓄積とATPの分解産物であるアデノシンの減少を引き起こすことを、世界で初めて明らかにした。
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亜鉛は必須ミネラルであり、ヒトの体内に約2グラムほど含まれている。体内で亜鉛が不足すると、皮膚炎や脱毛、味覚障害や下痢など、実に様々な症状からなる亜鉛欠乏症が引き起こされることは古くから知られていたが、それがどのような原理に基づくものであるかはほとんど分かっていなかった。
今回の研究では、細胞外のATPの分解に関する酵素の多くが、亜鉛を必要とする亜鉛要求性酵素であることが着目された。生体内において亜鉛は様々なタンパク質と結合してその機能を発揮しているが、亜鉛の重要な機能の一つは、特定の酵素の活性中心に配位してその酵素反応を触媒する、触媒因子としての機能である。このような、活性中心に亜鉛を持つ酵素を亜鉛要求性酵素という。亜鉛要求性酵素は様々な代謝経路に点在している。
亜鉛欠乏症による症状と、ATP代謝の破たんによる症状には共通点が多い。また、細胞外ATP代謝において機能する分解酵素の多くは、亜鉛要求性酵素である。従って、亜鉛の欠乏はこれらの酵素活性を低下させることによって細胞外ATP代謝を弱まらせるのではないかと考えられた。
そこで研究グループは、、培養細胞とラットとを用いて、通常の場合と亜鉛欠乏の場合とで、ENPP、CD73、ALPらの各亜鉛要求酵素、そして細胞外ATP代謝がどのように変化するのかを比較した。
結果として、亜鉛欠乏ではそれぞれの酵素活性が低下し、細胞外ATP代謝は低下していた。また、この活性低下は、一日分の亜鉛十分食の摂取で劇的に改善するということも分かった。
以上の研究成果は、英国の科学誌「Communications Biology」のオンライン版に掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)