ミクロの世界で起きる「量子のもつれ」 70億光年以上離れたクエーサーの光で確証
2018年8月31日 12:02
宇宙空間内のマクロな現象が時として、量子レベルのミクロな現象を確証する。大昔に発せられたクエーサーの光が「量子のもつれ」の存在を確証するのに役立ったという研究が、マサチューセッツ工科大学やウィーン大学の物理学者らによって発表された。
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量子のもつれとは、われわれの視覚では検知できないミクロな粒子の世界で起きる現象だ。2つの粒子間の距離が宇宙の両端くらい離れていたとしても、マクロな世界の物理法則では説明のつかない遠隔作用が生じる。2つの粒子がもつれあった状態にある場合、一方の粒子を観測すると、他方の粒子の状態が瞬時に決定されるというのだ。
この「非局所性」の問題は、20世紀の物理学者のあいだで長年議論されてきた。
量子のもつれを含めたミクロな世界の現象を説明する量子力学に反旗を唱えたのが、20世紀を代表する物理学者のアルベルト・アインシュタインだ。アインシュタインは1935年に、ボリス・ポドルスキ―やネイサン・ローゼンとともに、「物理的実在の量子的記述は完全だと考えうるのか?」という論文を発表し、ノーという答えを突きつけた。2つの粒子のあいだに不可解な遠隔作用が存在することは、アインシュタインにとって奇妙そのものであった。
その後、ジョン・ベルが1960年代に「ベルの不等式」と呼ばれる、古典的に説明のつく相関の上限を示した式を提示した。量子のもつれはこの上限を超えた相関であり、量子力学と古典的な力学はこのベルの不等式によって区別される。ベルの不等式を破る実験はいくつか報告され、1982年に仏物理学者のアラン・アスペによる実験がよく知られる。
ベルの不等式を破る実験には、いくつもの「抜け道」が存在する。「選択の自由という抜け道」と呼ばれるのもそのひとつで、実験者の選択が観測に及ぼす影響によって古典的に説明可能であるという「抜け道」が残されているという。
今回の発表で報告されたのは、地球から70億光年以上もの離れた2つの非常に明るいクエーサーを使って量子のもつれを検出するというもの。クエーサーは非常に離れた距離で明るく輝いているために、その内部構造は光学望遠鏡では検出できない天体だ。
「選択の自由という抜け道」をふさぐために、光子の状態の観測を行なう偏光板の角度の設定を、地球から遠く離れたクエーサーの光によって決定させる。そしてクエーサーの光を観測する2つの望遠鏡の中間地点で、ほつれた状態の光子を観測する。クエーサーの光自体は研究グループが実験を考案するよりはるか昔に発せられたので、観測者の選択の自由と抜け道はふさがれたのだという。
実験の結果、ベルの不等式を破る量子のもつれが検出された。古典的に説明される可能性は、10のマイナス20乗ほどだという。
研究グループは、さらに時間を遡ってビッグバンの残滓である「宇宙マイクロ波背景放射」の光子を、ベルの不等式を破る実験に活用できないか検討中だ。
研究の詳細は、20日に発行されたPhysical Review Letters誌に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)