「休む“権利”と“不便”は表裏一体」という話を聞いて
2018年8月24日 18:46
「ドイツ人は残業しない」というのは大いなる誤解だという記事を読みました。
著者によれば、日本で働き方改革の話になると、「欧州ではこれだけ休む」「誰も残業しない」などと言われますが、決してそんなことはなく、労働時間の短さを引き合いに出されるドイツでも、残業しないなどということはまったくないそうです。
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仕事が終わらなくても「帰ります」と言う人は、確かに日本よりもいますが、そういう人を積極的に評価しない、大事な仕事は任せたくない、というのは日本と同じで、「上司に認められたい」「出世したい」という人は、結果を残すために積極的に残業するそうです。
ただし、「労働時間貯蓄制度」といって、「今日2時間残業したので明日は2時間早く帰る」という調整をすることが根付いているので、その点は少し違うとのことでした。
これとは別に私がすごく気になったのは、毎年1ヶ月にわたるバカンスの実態に関する話でした。
「休暇を取っても仕事が回る」ということは決してなく、誰かが休めば仕事は滞るのだそうです。
特に夏のバカンス時期は、みんなが休みなので、役所へ行っても担当者が休みで手続きができない、病院の医者が休みで処方箋がもらえない、なじみのカフェやレストランもみんな休みだったりします。
休暇を取る側は休めてよいですが、仕事の発注側やユーザー側に立つと、バカンスのせいで仕事は全然回っておらず、手続きも買い物も食事もできなくなりますが、それをお互い様と割り切ってあきらめているだけだと言っていました。ドイツは労働者が休みやすいけれども、不便なことがたくさんあり、日本は労働者が休みづらいかわりに、いつでも便利だということでした。
この話は、私にとっては腑に落ちるところが多いものでした。「日本人は労働生産性が低い」などと言われ、ドイツの効率的な働き方を見習えという話がありますが、その指摘が決して正しいとは言えないことがわかるからです。
日本の場合は、店の営業時間が長く、いつでも誰か担当者がいて、待たずにスムーズに物事が進みます。過剰なくらいのサービスがあって、消費者もそれに慣れていて、そのサービスレベルを維持するために、多くの人が休めないのです。
いま取り組まれている「働き方改革」では、労働時間の短縮と、生産性の向上や効率化という矛盾した二兎を追っています。そのための手段はIT化やリモートワークや、人間の集中力を高めるなどというものまでありますが、この効率化の中に「サービス低下」が含まれなければ、つじつまを合わせるのは難しいということです。
日本でも最近は小売業を中心に、営業時間の短縮、定休日の復活、正月休みの延長などが行われ、運送業では配達の時間帯指定が制限されましたが、これは今までの便利さの提供をあきらめたということであり、ドイツを手本にしたとしても、理にかなったやり方だと言えます。
今後はどんな業界でも、納期調整や有料無料の線引きなど、考え直さなければならないことがいろいろありそうです。
日本の社会で果たしてどこまで許容されるのかはわかりませんが、「便利さの放棄」「サービス低下」を、働く者同士のお互い様として許容し、やらずに済ますこと、後回しにしていくことも考えていかなければ、本当の意味での「働き方改革」は進まないのだと、強く思ったところです。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。