宇宙飛行士に生じる眼病の謎を解明、京大の研究
2018年7月11日 12:01
京都大学などの研究グループは、長期宇宙滞在後の宇宙飛行士に見られる特有の眼病の原因を明らかにした。
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宇宙に長期滞在すると微小重力の影響によって様々な異常が現れてくるという事実はよく知られている。その例のひとつに、眼球の後部が潰れて眼球と脳をつなぐ視神経の周辺組織が変形してしまう、というものがある。だが、その原因はこれまでよく分かっていなかった。
この謎を明らかにしたのは、京都大学・工学研究科の掛谷一弘准教授、仏ラリボアジエール病院の篠島亜里研究員、大阪大学の多田智招聘教員らの研究グループである。
宇宙空間における人類の活動にはガガーリン以来の歴史があるが、国際宇宙ステーションへの長期滞在に伴って、微小重力下の長期滞在という問題が様々な角度から分析されるようになったのは比較的近年のことである。特に眼球部平坦化の問題に関しては、2011年に初めて公開された。
従来の学説では、この現象は脳髄液圧の上昇によって生じるものと考えられてきた。だが、文献に発表されている宇宙飛行士に関するデータを、解剖学と材料力学の観点から検討したところ、これらの病変の本質的な原因は、「大脳の上方への移動」にあったという。
詳細な分析は、解剖して取り出した人間の視神経鞘内部に圧力を加えた場合に関する研究成果を用いて作成した、視神経鞘の薄肉管モデルを作成することで行われた。
この知見は、いずれ人類がもっと広く宇宙へと進出する時代がやってきたとき、役に立つのではないかと考えられるという。ただ、この眼病は全ての宇宙飛行士に発現するわけではなく、おそらくは、頭蓋内のスペースの個人差に起因して、視神経鞘拡大が生じる個人とそうでない個人がいるのではないかと見られる。
なお研究の詳細は、ジャーナル「JAMA Ophthalmology」に公開されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)