コアラの全ゲノムを解読、ユーカリ食の謎に迫る
2018年7月8日 21:35
京都大学霊長類研究所ワイルドライフサイエンス(名古屋鉄道)寄附研究部門早川卓志特定助教の参加した、オーストラリア博物館が主導する「コアラゲノム・コンソーシアム」が、コアラの全ゲノム配列の解読に成功した。それにより主食となるユーカリの毒を識別し解毒するための能力など、多くの事実が明らかになった。
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日本では愛らしい動物として動物園などで親しまれているオーストラリア大陸の珍獣、コアラ。大陸の東部に棲息し、毒のあるユーカリの葉だけを食べるという不思議な生態でよく知られている。
また、ユーカリ林の減少や、感染症の拡大などの原因によって、絶滅の危機に瀕していることでも近年問題となっているところである。
コアラは腸内細菌によってユーカリの毒素を分解している。それはよく知られた事実である。ただ、その遺伝的な背景などはこれまでよく分かっていなかった。
今回の研究で、早川特定助教が担当したのは主に味覚に関連する遺伝子領域である。解析の結果として、コアラは、他の有袋類と比べた場合、毒を苦みとして感じる苦み受容体遺伝子(TAS2R)を多く持っていることが明らかになったと言う。
また、嗅覚の受容体、解毒代謝酵素にも他の有袋類には見られない特徴があった。すなわち、コアラは食べられるユーカリを識別するための嗅覚・味覚と、ユーカリの毒素を解毒する能力をゲノムレベルで進化させているということである。
一方で、甘味受容体やうまみ受容体の遺伝子については、哺乳類全体の中で見て特に特徴的なところはなかった。これは食性が限られている生物においては一般的に見られる傾向であり、予測の通りであるという。
なお、研究の詳細は英国の科学誌「Nature Genetics」のオンライン版に掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)