「職人気質だから教えられない」は本当にそうか
2018年7月5日 09:18
最近、それぞれ違う業界の会社ですが、こんな話がありました。
どちらの会社も製品生産や物作りにかかわる技術部門があり、そこでの人材育成が問題だと言います。要は技術者がうまく育っていないのだそうです。
受注生産、オーダーメイドという性格の製品ですが、技術者個人のスキルに委ねる「匠の技」のようなところがあり、それを次世代の技術者に教えていくことがなかなか難しいようです。
そしてその理由を、まったく異なる業界の会社にもかかわらず、異口同音に「職人気質だから」というのです。だから「教えることが苦手」「教えようとしない」といっています。
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言いたいことはなんとなくわかりますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
「職人気質」の意味を調べると、「職人に特有の気質で、自分の技能を信じて誇りとし、納得できるまで念入りに仕事をする実直な性質」とあります。また別の辞書では、「職人に多い気質で、自分の技術に自信をもち、安易に妥協したり、金銭のために節を曲げたりしないで、納得できる仕事だけをするような傾向」とされています。人材育成に関するマイナスの意味はありません。
さらに、「職人気質の人に多い性格」というものを調べてみると、確かにその中には「気難しい」「仕事を教えてくれない」という、よくある職人イメージのものがありましたが、こちらも「教えるのが苦手」という話はありません。
こうやってよく考えると、職人と言われる人たちは、確かに仕事へのプライドが高く、仕事に対して自他ともに厳しく、安易に他人に教えようとせず、昔ながらの「見て覚えろ」などはその典型ですが、だからといって、それは「教えることが苦手」なわけでも、「教える能力がない」わけでもありません。その気になれば教えられるのに、本人の仕事観からそれをしようとしないだけにすぎません。
「教える能力がない」のだとすれば、それはその人が「職人ではない」ということを意味します。職人気質だから教えないのではなく、教える能力がないから教えられないのです。
いろいろ聞いていると、どうも「職人気質」という言葉の中に、「教えない人」と「教えられない人」が混同されている感じがします。
もし「職人気質だから教えない」という人ならば、次に世代を育てること、教えることの大切さをよく説明し、納得してもらうしかありません。きっと頑固という特性もあるので、なかなか難しいかもしれませんが、働きかけを続けるしかありません。
これに対して、職人ではなく、ただの「教えられない人」であるならば、その人に指導を任せること自体がダメということになります。できない人ができるふりをしていることを、放置するのはいけません。
「職人気質」といわれる中には、まったく違う性質の人が混じり合っています。
ちなみに最近の「職人」と言われる人たちは、すごく丁寧にわかりやすく、一生懸命に教えてくれる人が大勢います。自分の技術を伝えることの意義や重要性をよく理解しているからです。
人材育成が進まないのを「職人気質」と言ってしまうと、原因を見誤ることがあります。本当の職人は、決して「教えるのが苦手」ではありません。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。