「万引き家族」がカンヌ最高賞獲得!エンタメ作品にない映画独自の魅力を凝縮

2018年6月8日 07:45

■真っ向勝負の映画「万引き家族」が最高賞を受賞

 「誰も知らない」で衝撃的なデビューを果たした後、「歩いても歩いても」や「海街diary」など家族をテーマにした映画を撮り続けてきた是枝裕和監督。過去に何度も映画賞へノミネートされるものの受賞は逃してきたが、ついに「万引き家族」にてカンヌ映画祭の最高賞「パルムドール賞」を受賞した。

 日本人監督によるパルムドール賞受賞は、1997年の今村昌平監督による「うなぎ」以来の21年ぶりの快挙となり(今村は、1983年に「楢山節考」でも受賞)、1954年の衣笠貞之助・「地獄門」、1980年の黒澤明・「影武者」、1983年・1997年の今村に次いで4人目となる。

 審査委員会からも「俳優の演技、脚本、映像、演出など、すべての要素で抜きん出ていること。あくまで芸術的な要素から判断する」と評された本作だが、いったいどのような作品となっているのだろうか。

■「万引き家族」のあらすじ

 東京の高層マンションの谷間に残されたような下町。そこには昔ながらの平屋が残っており、その1つに初江(樹木希林)が暮らしていた。その一軒家には初江以外にも治(リリー・フランキー)と信代(安藤サクラ)、信代の妹である亜紀(松岡茉優)、そして息子の祥太(城桧吏)がひとつ屋根の下で身を寄せ合って暮らしている。

 しかし、彼らは1人として血のつながっていない赤の他人。治と信代、亜紀、そして祥太に限っては初江の年金目当てに集まった人間だったのだ。しかし、1人に支給される年金だけで5人の生活費を賄うのは難しく、初江の元に集まった4人は万引きで何とか工面することにする。

 彼らはとても自慢できるような生活を送っていなかったが、それでも家族のように和気あいあいとしながら日々生きていた。しかし、ある日信代が路上で見つけた女の子を連れて帰ってくることで、それぞれの人間が抱く葛藤がぶつかりあっていくー。

■「家族」を描き続けた是枝監督の1つの境地

 是枝監督は「万引き家族」に限らず、撮影してきた映画は必ずと言っていいほど「家族」がテーマとなっていた。「誰も知らない」ではネグレクト、「歩いても歩いても」ではある家族のお盆の風景、そして「海街diary」では腹違いの姉妹たち……。それぞれの映画を掘り起こすと「家族」に必ず行き着くのだが、「万引き家族」は犯罪でしかつながれない家族像を描き切った。

 普通に暮らしてきた人ならば「犯罪を犯さないと家族になれない」という感覚は到底理解できないだろう。しかし、なにか特定の問題や趣味、仕事でないとつながれない人間関係は日常生活でも感じることがあるだろう。そう思えば、「万引き家族」の主役たちはたまたま「犯罪」でしかつながれなかった不器用な人たちであると共に、そういう人たちを生み出している社会で生活していると考えれば、自分たちにとって全く無関係とは言えないのではないだろうか。

 正面から「家族」というテーマと共に、社会問題にも切り込んだ「万引き家族」は決して腹から笑えるエンタメではない。しかし、胸の底にある静かな感情をくすぐってくれる作品だと個人的には感じる。

 「万引き家族」は全国の映画館にて6月8日から公開予定。(記事:藤田竜一・記事一覧を見る

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