ノウハウは一般化しないと使いづらく、一般化すると盗まれる
2018年5月31日 20:52
少し前のことですが、京セラ創業者の稲盛和夫氏が考案した「アメーバ経営」に関する企業秘密を不正に持ち出したとして、子会社の元幹部が不正競争防止法違反(営業秘密の領得)の容疑で書類送検されたという話題がありました。
容疑は自宅から会社の業務用パソコンを使って会社のサーバーに接続し、アメーバ経営を活用した病院経営のコンサルティング情報を不正に取得し、秘密を得たということです。この元幹部はその後病院職員に転職しており、「医療業界に身を置きたかったので情報が役に立つと思った」と容疑を認めているとのことでした。
概略は「会社が持っているコンサルティングのノウハウを私的に持ち出した」ということですが、こういう話は私たちコンサルタントにとっては、かなり複雑な気分になる話です。
例えば、自分の持っているノウハウを無断で一方的に流用されたとしたら、これは完全な営業妨害で死活問題になりますが、その一方、自分に役立つ他人のノウハウは、可能であれば手に入れたいと考えます。
自分のレベルを上げるには、他人のノウハウを学んで参考にすることが必要ですが、それをやり過ぎると盗用になります。
コンサルタントとして、自分のノウハウがいろいろな顧客に利用しやすい形を考えると、ノウハウを定型サービスとして組み立てるなど、一般化することが望ましいですが、一般化して使いやすくすることで、今回の事件のようにノウハウを盗用されるような事態が起こります。
資料など、誰が見てもわかる一般的な形にまとめられているものを、勝手に持ち出せば犯罪ですが、頭の中に残っているものであれば、そういうことは言われません。
多くのコンサルタントは、過去の経験を今の仕事に活かしますが、やり方によっては盗用といわれてしまいます。資料などの目に見える形になっているものをそのまま使うのは良くなく、形に見えない経験や知見であれば、あまり盗んだなどとは言われません。
また、仮にノウハウが盗まれても、コンサルタント個人のキャラクターがセットでないと価値がない場合もあります。
例えば、研修プログラムは一緒でも、講師が違うと効果が変わってしまうようなことで、これは台本が同じでも、演じる役者が誰かによって、作品の価値が変わることと似ています。
こういう場合は、中身を多少真似されてもたいした被害はありません。
このように、どこまでが台本の面白さで、どこまでが役者の演技のおかげなのかを線引きできないことと同じで、コンサルティングのノウハウも、どこまでが固有のノウハウなのかという線引きは難しいです。
今回の事件は、自分の利益にするため、その会社以外の場所で使うために、形になった資料を持ち出したことで犯罪として扱われましたが、そうでなければ罪に問われたかはわかりません。
逆に言えば、私たちのようなコンサルタントは特に、こういうことの被害者にも加害者にもなる可能性が、常にあるということです。
被害を防ぐということで、ご自身のノウハウを特許や商標の形で守ろうとする人もいますし、あえて一般化や汎用化をしない人もいます。
盗用だと言われないためには、慎重に節度を持った情報収集と活用をするように、常に注意するしかありません。
様々なノウハウというのは、一般化しないと使いづらいが、一般化すると盗まれやすいものだということを、あらためて感じた一件でした。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。