好業績背景に新社長へ交代の京都4社、共通点は海外事業の拡大に貢献
2018年5月14日 09:48
日本電産、任天堂、ローム、ワコールHDといえば、京都で生まれて今や世界で稼ぐ企業の代表格。今年はその4社揃って、新社長に交代する。4人とも創業家出身ではなく、出身地もキャリアもそれぞれ異なるが、ともに社業飛躍の原動力になった海外売上の拡大に貢献した実績を持っており、好調な2018年3月期業績の金屏風を背にして経営のバトンを受け継ぐ。各社とも強烈なカリスマ性を持った創業者、経営者の存在で知られているが、新社長は自分なりの新しいカラーを加え、新しい企業イメージをつくり出せるか?
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■日本電産、吉本浩之新社長の華麗なる転身
日本電産は2月15日に1973年の創業以来初の社長交代人事を発表し、6月20日付で、現在は副社長の吉本浩之氏が社長兼COO(最高執行責任者)に就任する。創業者の永守重信現会長兼社長(CEO)は社長を退き、代表権を持つ会長兼CEOになる。
吉本氏は京都府出身で50歳。大阪大学人間科学部卒でカーネギーメロン大学経営学修士号(MBA)を持つ。日商岩井(現:双日)、GEのグループ企業、カルソニックカンセイ、日産自動車を経て2015年3月に入社。総合商社の自動車販売部門を振り出しに、アメリカの大学でMBAを取得後「シックスシグマ」で知られるGEのグループ企業に勤務。日産自動車ではタイ日産自動車の社長を務めて再建させた。永守氏の経営哲学に共感して日本電産に入社すると2ヵ月後に子会社トーソクの社長に就任。「華麗なる転身」を繰り返した経歴を持つ。
日本電産トーソクでもベトナムの製造拠点の生産性改善に徹底的に取り組んで業績不振からの脱却を果たすなど、自称「再建・変革請負人」。カリスマ創業者の永守氏はそんな「自動車のスペシャリスト」で、科学的メソッドと現場主義が両立しているグローバルスタンダードの「経営のプロ」に、日本電産の舵取りを託した。
日本電産の2018年3月期決算(IFRS基準)は、売上高は前年比24.1%増、営業利益は20.3%増、税引前利益は16.4%増、当期純利益は18.4%増の2ケタ増収増益。会計基準の変更をはさむものの5期連続の最高益更新で、年間配当は10円増配した。2019年3月期決算見通しは、売上高は前年比5.8%増、営業利益は13.3%増、税引前利益は12.5%増、当期純利益は10.3%増の2ケタ増益で、年間配当は5円増配する予想である。
前期は電動パワーステアリングやブレーキなどに使われる自動車用モーターが大きく伸び、家電向けモーターの売上も増加。HDD向け精密小型モーターの販売も改善した。為替レートが想定よりも円安で推移したことも増益に寄与している。今期は自動車向け、省エネ家電向け、ゲーム機向けなどで需要が拡大して6期連続最高益更新を見込んでいる。当初の通期想定為替レートは1ドル=100円、1ユーロ=125円と、現状と比べてかなりの円高を見込んでいる。
■任天堂、古川俊太郎新社長は欧州駐在11年
任天堂は4月26日、古川俊太郎取締役が社長に就任する人事を発表した。君島達己現社長は相談役になる。社長交代は岩田聡前社長の死去に伴い君島氏が急きょ登板して以来、3年ぶりになる。
古川氏は東京都出身で46歳。君島現社長から22歳も若返る。早稲田大学政経学部卒業と同時に1994年に入社した。経理部門が長かったが、ドイツにある欧州統括会社に約11年駐在し、ヨーロッパで「Wii」をヒットさせるなど海外経験も豊富。2015年に経営企画室長に就任して「ニンテンドースイッチ」の販売計画に関わり、そのヒットにより同社の業績を急拡大させた実績をひっさげての社長昇格になる。
任天堂の2018年3月期決算(日本基準)は、売上高は前年比115.8%増(約2.1倍)、営業利益は504.7%増(約6倍)、経常利益は295.8%増(約4倍)の3ケタ増収増益で、当期純利益は36.1%増。年間配当は160円の増配だった。2019年3月期決算見通しは、売上高は前年比13.7%増、営業利益は26.7%増、経常利益は15.4%増、当期純利益は18.2%増の2ケタ増収増益で、年間配当は100円増配という予想だ。
「ニンテンドースイッチ」は前期約1500万台売れたが、今期販売目標は2000万台。「マリオ」など任天堂定番の人気ソフト投入が「スイッチ」快進撃の原動力といわれたが、今期も他社製を巻き込みながらそれが続く見通し。4月20日発売の「ニンテンドーラボ」もすべり出しは好調と伝わっている。
■ローム、藤原忠信新社長は営業畑一筋の人
ロームは4月26日に社長交代人事を発表し、6月28日の株主総会後の取締役会で、現在は専務を務める藤原忠信氏が社長に就任する。8年間社長を務め、同社を成長軌道にのせた澤村諭現社長は相談役となる。
藤原氏は宮崎県出身で64歳。関東学院大学文学部卒。1983年にロームに中途入社して以来、創業時からの主力製品の抵抗器やカスタムLSIなどの営業畑一筋に歩む。2009年に取締役となり、2017年に専務に就任。車載・産機市場に注力し、技術力を武器に海外でも積極的に新規顧客を開拓するという経営戦略に、現社長澤村氏とともに取り組んできた。主力工場がタイで洪水に見舞われた際には、陣頭にたって指揮をとり、社員一丸となって危機を乗り越えたという。藤原氏について、澤村氏は「ロームの戦略をより一層加速させてくれるだろう」と期待を述べている。。
ロームの2018年3月期決算(日本基準)は、売上高は前年比12.8%増、営業利益は79.1%増、経常利益は52.4%増、当期純利益は40.9%増の2ケタ増収増益。年間配当は記念配当込みで110円増配した。2019年3月期決算見通しは、売上高は前年比5.8%増、営業利益は1.7%増、経常利益は12.5%増、当期純利益は18.1%増で、今期に続く2ケタ最終増益、過去最高売上高を見込む。年間配当は前期の110円の記念配当を計算に入れなければ20円の増配を予想している。
前期は電装化が進む自動車向けは電源ICなどが好調で、産業機器向けともども工場稼働率が高まった。事業構造の転換でかつての「家電依存度が高い体質」からイメージチェンジしている。今期はEVシフト、自動運転の技術開発競争で自動車向けがさらに伸びそうで、熱に強い「炭化ケイ素(SiC)半導体」はEV化では有望プロダクツ。IoT(モノのインターネット)関連の電子部品も海外市場で伸びが期待され、現在38%の海外売上高の50%超えという目標も、すでに視野に入っている。
■ワコール、安原弘展新社長はアジアで実績
ワコールHDは4月26日に社長交代人事を発表し、6月28日の株主総会後の取締役会で、現在ワコール(事業会社)会長を務める安原弘展氏が社長に就任する。1987年以来31年間、社長を務めた塚本能交現社長は代表権を持つ会長になる。創業家以外からの社長起用は同社では初めてになる。
安原氏は岡山県出身で66歳。同志社大学商学部卒業と同時に1975年ワコール入社。営業畑が長く、1997年には中国の現地法人の社長を務めるなど主にアジアでブランドの拡大に手腕を発揮した実績がある。その後は「ウイング」「ワコール」のブランド事業本部長を歴任し、市場が大きく変化する中で国内販売の指揮もとってきた。
ワコールHDの2018年3月期決算(米国基準)発表は5月15日の予定。その会社見通しは、売上高は前年比2.1%増、営業利益は3.9%増、税引前当期純利益は24.6%減、当期純利益は28.1%減で、年間配当は据え置き。前期、国内では百貨店などで苦戦したが、海外でネット販売がアメリカを中心に好調だった。最終減益は2017年3月期に計上した土地売却益の反動が出る。2019年3月期は、海外でさらに伸びて最終増益に転じる見通しである。
今期から2019年の創業70周年をはさんだ新中期経営計画に入る。新社長のもと、国内ではワコール流の流通改革を行って立て直しを図り、海外では東南アジアなど新興国中心にさらなるシェア拡大を目指して、経営環境の変化もチャンスに変えていく構えだ。
■カリスマ経営者のイメージを乗り越えるか?
日本電産は創業者の永守重信現会長兼社長、任天堂は「中興の祖」故・山内溥氏、ロームは創業者の佐藤研一郎氏、ワコールHDは創業者の故・塚本幸一氏という、強烈な個性で社業を大発展させたカリスマ経営者がいた。それゆえ京都では「永守はんの会社」「山内はんの会社」「佐藤はんの会社」「塚本はんの会社」と名前だけ言っても、「あそこだすか」とわかってもらえるほど。「稲盛はん」「立石はん」「村田はん」同様、文字通りのビッグネームだ。
そんな固定化された企業イメージがあると、創業家出身ではない新社長にしてみればそれなりのやりにくさがあると想像に難くない。それを乗り越え、良いものは残しながら自分なりの新しいカラーを加え、時代に即した新しい企業イメージをつくり出せるかどうか、経営手腕が期待される。(編集担当:寺尾淳)