空気を肥料とする農業は実現するか 名古屋大学、JSTの研究
2018年5月13日 21:43
かつて「空気を肥料に変えた」と言われた大発明がある。大気中の窒素を化学合成して肥料のアンモニアを作る、ハーバー・ボッシュ法である。今回の研究はしかしこれをさらに推し進め、農作物そのものに窒素を固定する能力を獲得させ、化学的な合成の過程を経ることなく「空気を肥料にすることのできる農作物」を開発しようという挑戦だ。
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肥料と呼ばれるものは主に三つの要素からなる。窒素、リン酸、カリウムである。基本的に、農業において高い収穫量を上げるためには十分な窒素肥料を与えることが必要である。
窒素というのはよく知られているように地球の大気中に多量に存在している。だが気体の窒素は安定した物質であるため、そのままでは肥料にならない。窒素を肥料にするための方法は色々とあるのだが、現在は、ハーバー・ボッシュ法とその系譜、すなわち科学的合成によって窒素をふくんだ肥料を製造する方法がとられている。
だがハーバー・ボッシュ法はそれ自体が工業的生産物であるので、化石燃料由来の多量のエネルギーが必要であり、二酸化炭素の排出に繋がる。それを解決するのが、「空気を肥料とする農業」であるというわけである。今回の研究は、そのための方途を拓こうとするためのものである。
ところで微生物には、空気中の窒素を肥料成分に変える能力を持つものがいる。ニトロゲナーゼという酵素を利用するのである。植物にこれを持つものはいない。また、植物にニトロゲナーゼをそのまま導入しても、すぐ壊れてしまう。
今回の研究では、遺伝子組み換えによってニトロゲナーゼを作るタンパク質を窒素固定能力を持たないシアノバクテリアに与え、ニトロゲナーゼを作り出せるようにすることに成功した。その能力はごく低く、あまり活性は高くないというが、あるいはこれは農業の次なる革命の大きな一歩となるのかもしれない。
なお、研究の詳細は英国科学雑誌Scientific Reportsに掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)