東海大など、インスリンの簡易化学合成法を開発

2018年5月11日 18:00

 主に糖尿病の治療に用いられるインスリンの簡便な化学合成法が開発された。東海大学理学部化学科講師の荒井堅太氏および同学科教授の岩岡道夫氏、ならびに大阪大学蛋白質研究所教授の北條裕信氏、東北大学多元物質科学研究所教授の稲葉謙次氏および同大学学際科学フロンティア研究所助教の奥村正樹氏、福岡大学理学部化学科の安東勢津子(開発当時:講師、現在:非常勤講師)氏らの研究グループによるものである。

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 あまり知られていない話であるが、インスリンの価格高騰が近年、問題になっているのだそうである。健康保険制度が充実している日本ではあまり問題視されることは少ないのだが、主にアメリカで値上がりが著しく、米国医師会雑誌の報告によると、2002年から2013年の約10年間にかけ、インスリンの価格は1mLあたり490円(4.34ドル)から1,450円(12.92)ドル、すなわち3倍ほどの値上がりをしていて、糖尿病患者が費用上の問題からインスリン治療にアクセスできないという事態が生じるに至っているという。

 ちなみにアメリカには2,200万人を超える糖尿病患者がいる。日本は厚生労働省の2014年調査に基づいて言うと316万6,000人である。

 さて、インスリンというのは簡単にいえば血糖値を下げる物質であるが、2本の異なるポリペプチド鎖(A鎖とB鎖)が、ジルフィド結合と呼ばれる化学結合でリンクした特徴的な分子構造を持ち、化学合成は容易ではない。詳細は省略するが、複雑な段階的手法を取らなければならなかったのである。

 しかし今回の研究では、A鎖とB鎖を1対1で混ぜ、水溶液中でインスリンの構造になる方法が発見された。このような手法は、完全に初めて発見されたものではないのだが、半世紀以上も前に「非効率的な方法」として捨て去られた方法論だったらしい。実際、5%ほどしかインスリンを回収できなかったのである。しかし今回の研究では、40%という高い効率でインスリンを合成することができた。これが新しい糖尿病製剤の製法の開発に繋がり、世界の糖尿病患者の福音となることを願いたい。

 なお、研究の詳細は、英国の国際化学誌「Communications Chemistry」に掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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